紫外線損傷DNAの化学合成

紫外線損傷DNAの化学合成

紫外線により生じる損傷DNAの一つである(6−4)光産物は光反応による収率が低く、しかもアルカリに不安定であるため、それを有するDNA断片(オリゴヌクレオチド)を化学的に合成することは不可能であると考えられていた(Taylor J.-S. (1995) Pure Appl. Chem. 67, 183−190)。しかし、低収率ながら十分な量の(6−4)光産物の2量体型ホスホアミダイト(DNA合成機用の合成試薬)を得ることができ、緩和な条件で除去できる保護基が付いた通常塩基のホスホアミダイトと組み合わせることにより、この損傷を有するオリゴヌクレオチドの化学合成に世界で初めて成功した(1)。

最初に合成したのはチミンーチミンの配列に形成される(6−4)光産物であったが、チミンーシトシンの(6−4)光産物についても同様の合成を行なった(2)。(6−4)光産物を有する長鎖のオリゴヌクレオチドを合成すると5’側塩基のN3位に対するカップリングにより副生物が多量に生成するが、活性化剤としてテトラゾールの代わりにベンズイミダゾリウムトリフレートを用いることにより収率を低下させることなく副反応を抑えることができた(3)。また、長波長の紫外線により生成する(6−4)光産物のデュワー型異性体についても、構築ブロックを合成しオリゴヌクレオチドに入れることに成功した(4)。

また、紫外線損傷DNAの中で最も多く生じるシクロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)のホスホアミダイト合成は1987年に報告されていたが(Taylor et al. (1987) J. Am. Chem. Soc. 109, 6735-6742)、合成途中の光反応で生じる立体異性体を分離するには非常に煩雑な行程が必要であった。我々は、シトシン塩基の環外アミノ基をアセチルアミノ基に誘導した塩基を用いて光反応を行うことにより、i) 最大4種類生成する立体異性体のうち1つが立体選択的に形成すること、ii) シクロブタン環形成後の加水分解が促進されること、の2点を見出した(5)。この反応により、trans-synの立体構造を有するCPDを選択的に合成できるようになった。

1) Iwai, S., Shimizu, M., Kamiya, H., and Ohtsuka, E. (1996) J. Am. Chem. Soc. 118, 7642−7643
2) Mizukoshi, T., Hitomi, K., Todo, T., and Iwai, S. (1998) J. Am. Chem. Soc. 120, 10634−10642
3) Iwai, S., Mizukoshi, T., Fujiwara, Y., Masutani, C., Hanaoka, F., and Hayakawa, Y. (1999) Nucleic Acids Res. 27, 2299−2303
4) Yamamoto, J., Hitomi, K., Todo, T., and Iwai, S. (2006) Nucleic Acids Res. 34, 4406−4415
5) Yamamoto, J., Nishiguchi, K., Manabe, K., Masutani, C., Hanaoka, F., and Iwai, S. (2010) Nucleic Acids Res. 39, 1165-1175

図1:チミンーチミンの配列に形成される(6–4)光産物ホスホアミダイト合成スキーム

図2:チミンーシトシンの(6–4)光産物(左)及びデュワー型光産物(右)構築ブロック

図3:N-アセチル修飾による立体選択的CPD形成反応と加速された加水分解反応