酸化損傷DNAの化学合成

酸化損傷DNAの化学合成

チミングリコールは電離放射線の被曝や生体内の活性酸素によりDNA中に生じる重要な酸化損傷であるが、この損傷塩基もアルカリに不安定であるため、これを有するDNAの化学合成は報告されていなかった。しかし、チミングリコールの4つの異性体のうち(5R,6S)体は(6−4)光産物の5’側の塩基に構造が類似しており、アルカリに不安定という性質も同じであるので、(6−4)光産物と同様にオリゴヌクレオチドに入れることができるのではないかと考えた。保護したチミジンを酸化オスミウムと反応させると(5R,6S)-, (5S,6R)-チミジングリコールが6:1の比で得られ、まず(5R,6S)体を3′-ホスホアミダイトとし5R-チミングリコール(水溶液中で6位はRSの平衡になる)を有するオリゴヌクレオチドの合成に成功した(1)。続いて5S– チミングリコールについても同様に合成し、チミングリコールは5位の立体配置にかかわらず複製時にいずれのヌクレオチドとも塩基対を形成できないことを明らかにした(2)。

さらに、Sharpless asymmetric dihydroxylationを用いると(5R,6S)体と(5S,6R)体の比は1:2となり、5S-チミングリコールを有するオリゴヌクレオチドを効率的に合成することに成功した(3)。なお、(5R,6S)-チミングリコールのホスホアミダイト構築ブロックは製品として市販されている。

また、過ヨウ素酸酸化によりオリゴヌクレオチド中のチミングリコールを選択的かつ定量的にホルムアミドに分解できることを明らかにした(4)。

 

1) Iwai, S. (2000) Angew. Chem. Int. Ed. 39, 3874−3876
2) Iwai, S. (2001) Chem. Eur. J. 7, 4343−4351
3) Shimizu, T., Manabe, K., Yoshikawa, S., Kawasaki, Y., and Iwai, S. (2006) Nucleic Acids Res. 34, 313−321
4) Toga, T., Yamamoto, J., and Iwai, S. (2009) Tetrahedron Lett. 50, 723−726

図1:チミンーチミンの配列に形成される(6–4)光産物ホスホアミダイト合成スキーム

図2:Sharpless Asymmetric Dihydroxylation (AD) reaction

図3:オリゴヌクレオチド中でのチミングリコールからホルムアミドへの変換