蛍光性核酸プローブの開発

塩基除去修復反応の蛍光による検出と解析

損傷DNAの化学合成の次の段階として合成したDNAに機能を付加して生物学や医学の研究に応用することが重要であると考え、塩基除去修復(BER)における鎖切断反応を蛍光により検出・解析する方法を開発した。BERは塩基の酸化やアルキル化あるいはアミノ基の加水分解といった比較的小さな化学構造の変化に対して働く修復系であり、反応の解析には放射性同位元素である32Pで標識したオリゴヌクレオチドが一般的に用いられてきた。我々は立体選択的な合成に成功しているチミングリコールを基質とする大腸菌のエンドヌクレアーゼⅢとそのヒトホモログであるNTH1に着目し、これらによる鎖切断反応を蛍光により検出するためのプローブを合成した(1)。このプローブの信頼性は、以前に広島大学との共同研究により明らかにした基質特異性(2,3)を再現性良く検出できることにより示された。また、一部のリン酸ジエステル結合を細胞内で分解されないフォスフォロチオエートに変換することによりヌクレアーゼ耐性を有するプローブとし、それを用いてヒトの培養細胞中でBER反応を検出することに成功した。この方法は簡便かつ安全であるだけでなく、リアルタイムでの解析や複数の基質に対する反応の同時解析などにも応用でき、分子細胞生物学のツールとしての利用が期待される。

 

1) Matsumoto, N., Toga, T., Hayashi, R., Sugasawa, K., Katayanagi, K., Ide, H., Kuraoka, I., and Iwai, S. (2010) Nucleic Acids Res. 38, e101
2) Katafuchi, A., Nakano, T., Masaoka, A., Terato, H., Iwai, S., Hanaoka, F., and Ide, H. (2004) J. Biol. Chem. 279, 14464-14471
3) Doi, Y., Katafuchi, A., Fujiwara, Y., Hitomi, K., Tainer, J.A., Ide, H., and Iwai, S. (2006) Nucleic Acids Res. 34, 1540-1551

図1:

図2:

図3: