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研究内容


ニトリルの環境調和型触媒反応の代表例


シアノカルバニオン錯体触媒の炭素炭素結合形成能:  新形式の炭素炭素結合形成は、種々の遷移金属シアノカルバニオンで一般的に起こることを実証



X線結晶構造解析によって決定 されたアルドール、マイケル反応の触媒
Ru+Cp(NCCH-SO2Ph)(PPh3)2の分子構造


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X線結晶構造解析によって決定された触媒的マイケル反応の 中間体Ru+Cp[NCCH-(SO2Ph)CH(CH3)CH2(COPh)](PPh3)2の分子構造


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中性条件下でニトリルのアルドール縮合、マイケル付加を進行させる触媒  Ru+Cp(NCCH-SO2Ph)(PPh3)2のX線結晶構造解析により得られた分子構造

  



中性条件下で進行する環境調和型アルドール、マイケル型触媒反応を開拓

アルドール反応、マイケル反応は、安定カルバニオンを求核剤にする代表的な炭素炭素結合形成反応です。 我々の研究グループは、にRuH2(PPh3)4やIrH(CO)(PPh3)3、 RuCp(NCCHCO2R)(PPh3)2 などの遷移金属 ヒドリド錯体を触媒に用いると、シアノ酢酸エステルのようなニトリルのアルドール反応やマイケル反応、 あるいはCN3重結合への付加反応が効率よく進行することを世界ではじめて明らかにしてきました。

        図1. Ru, Ir錯体触媒を用いる、中性条件で進行するニトリルの炭素炭素結合形成
          触媒反応:アルドール反応、マイケル反応、Thorpe-Ziegler型反応

 

これらの触媒反応では、これまでNaOHなどの強い塩基で行われていた反応を、中性の温和な条件下で 触媒的に進行させることに成功しています。さらに合成化学的に重要なことに、この触媒反応により、 これまで行えなかったニトリルだけに反応する基質選択的な炭素―炭素結合が、行えるようになりました。 これらの研究成果は、その後世界中で報告された多くのアルドール反応、マイケル反応の基礎としての 重要な意味を持っています。

     図2. ニトリル求核剤に選択的に進行するルテニウム触媒によるアルドール反応(上)
     およびニトリル親電子剤に選択的に進行するイリジウム触媒によるThorpe-Ziegler型反応(下)

  



触媒活性種シアノカルバニオンの構造と反応性

これらの反応の活性種と考えられる窒素結合型の遷移金属シアノカルバニオンを、実際に単離し、 その構造と反応性、触媒活性に関する研究を行っています。Ru+Cp(NCC-HSO2Ph)(PPh3)2を 電子吸引性置換基を持つオレフィンと反応させると、ニトリルのα位で炭素炭素結合が 形成されたN-型カルバニオンRu+Cp(NCC-(SO2Ph)CHPhCH(CO2Me)2](PPh3)2が定量的に 得られることが判りました。他のN-型シアノカルバニオンも多くの電子欠損性 オレフィンと同様の反応をすることも判明し、これが極めて一般性の高い反応で あることも確認できました。 Ru+Cp(NCC-HSO2Ph)(PPh3)2とPhCH=C(CO2Me)2の THF-d8中298Kでの反応の速度論的検討よりこの反応が不可逆2次で進行していることが 示され、その反応速度定数k1 = 2.89 x 10-3 M-1s-1と決定されました。 これによって、シアノカルバニオンの炭素-炭素結合形成段階の反応性は、 金属から遠く離れた、裸のカルバニオンの上での直接反応によることが明示されました(図3)。


     図3. 炭素炭素結合形成ステップにおける裸のアニオンの直接求核反応:
     金属の直接関与のない炭素炭素結合形成が当たり前に存在することが、
     中間体の基礎研究で明らかに

  

 

炭素炭素結合形成ステップで得られたN-型錯体Ru+Cp(NCC(SO2Ph)CHPhCH(CO2Me)2](PPh3)2は フェニルスルホニルアセトニトリルと反応してマイケル付加物を生成し、元の錯体Ru+Cp(NCCHSO2Ph)(PPh3)2に戻ることも確認できました。 THF-d8中298Kでの反応の速度論的検討により、このステップはN-型錯体に1次、ニトリルには0次で進行することが判明し、 この際の一次反応速度定数k2は7.3 x 10-6 s-1と決定されました。 配位子交換ステップの存在が明示されたことにより、このマイケル型触媒反応が炭素炭素結合形成ステップと配位子交換ステップから形成されることが強く示唆されました(図4)。

多くの有機合成触媒反応の研究例では、予想した素反応の存在が明示された段階で反応機構確定としてしまうものですが、我々は、この際、この段階では満足せず、 さらにこの素反応が真に触媒反応に組みこまれているかを確定するため、触媒反応と量論反応の速度論の整合性を検証しました。 10mol%のRu+Cp(NCCHSO2Ph)(PPh3)2触媒存在下でのニトリルNCCH2SO2PhのオレフィンPhCH=C(CO2Me)2へのマイケル型付加反応における生成物NCCH(SO2Ph)CH(Ph)CH(CO2Me)2の生成速度は、 オレフィンとニトリルの濃度に依存せず、触媒濃度に1次となり、その際の見かけの反応速度定数kobsは7.7 x 10-6 s-1となりました。 この値は、前述した配位子交換ステップが触媒濃度のみに対して1次で、その反応速度定数が7.3 x 10-6 s-1であることと、ほぼ完全一致しており、 このことから、本反応は配位子交換段階が律速となる、図4の反応機構で進行する反応であることが確定しました。 炭素炭素結合の触媒反応が金属と親電子剤の直接のコンタクトなしに進行する珍しい機構が、実はニトリルのマイケル反応では当たり前に起こっていたことを実証することができました。 これはマイケル付加反応の反応機構を中間体の構造を含めて完全解明した最初の例となりました。



図4. Michael反応の機構: 基本的炭素炭素結合触媒反応における完全機構解明の最初の例