• ホーム
  • 研究内容
  • 研究成果
  • 研究環境
  • メンバー
  • 研究室へのアクセス
  • ホーム
  • >
  • 研究内容 » 分子回転系

分子回転系の構築


将来の機能性分子のすがたの一つ:分子機械

現代有機化学において、人類は、(1)のぞみの化合物が合成できる(2)小さな分子の反応性がほぼ理解できてきた、 といった段階にあります。思い通りの機能を出す分子をつくる研究は、まだ始まっていないといっても過言ではないでしょう。 将来に向けて人類が分子で思い通りの機能を出すための研究方法論はたくさん考えられますが、 そのうちの重要なものが分子機械の構築です。曲がる、移動する、つかむなど、ロボットが目的を達成するために、 その機能のあるパーツを組み合わせて創っていくように、22世紀にはきっと分子も、機能別のパーツが社会に 用意されていて各種の高機能分子機械が人類の繁栄のために働いている。こうした夢を描いて、ロボットの腕の ような接合部分を制御するという遠い目標を見据えて、マクロで回転挙動を示す水車型の分子を構築し、 その動的挙動の制御のための基礎研究を開始しています。

  



水車型分子の回転速度制御に成功

2枚の平らな羽根が回転する水車のような有機分子の回転挙動の研究は、その潜在的重要性から、 物理有機化学の観点より古くから行われています。いずれの場合も温度以外の要因では速度などの 動的挙動を制御できていないのが現状です。例えば化合物 1 のような有機分子での、 回転の標準自由エネルギーは、溶媒などを変えても全く変化しません。これは回転における T型遷移状態が、本質的に外部環境を排除した状況になるためであり、これらの研究から 水車型の分子の回転は本質的に制御できないとされてきました(図1a)。


図1 水車型分子の回転 
制御不能な有機平板の回転と、ちょうつがい金属を埋め込んだ平板自由制御

          図1 水車型分子の回転 (a) 制御不能な有機平板の回転と
          (b) ちょうつがい金属を埋め込んだ平板の自由制御

 

我々の研究グループでは、trans-ビス(サリチルアルジミン)パラジウム平面を羽根板とした 水車型回転分子 2 を構築し、この回転制御研究を行っています(図1b)。 この回転分子はこれまでの回転系分子とは異なり、外部環境で驚くほどの速度制御が 行えます。溶媒を変えたり、酸、塩基の存在によって回転はそれぞれ数百倍以上加速 されます。例えば、カルボン酸の存在下でCD2Cl2溶媒中では、THF-d8溶媒中と比較し て21000倍の速さで回転します。この分子では、 羽根板のパラジウム配位平面まわりの配座の高い自由度と制御性のためにT字遷移状態の 自由なデザインが可能になり、回転活性化エネルギーが制御できるわけです。

  



はじめての回転系での不斉誘起

さらに興味深いことに、光学活性カルボン酸を添加剤に用いると、アキラルなsyn体がキラルな anti体に回転する際に不斉が誘起されます。光学的に純粋なカルボン酸の金属中心への働きで 右に回って右巻きの化合物が、逆の旋光度を持つカルボン酸では、左に回って左巻きの化合物が できます。結合ではなく分子の特定部分全体が水車のように回転することによる不斉誘起は、 これまで、報告されたことのない現象です。現在条件によって40%eeを超えるエナンチオ選択性が 観測されており、その動的挙動の基礎研究が進行中です。

図2 光学活性カルボン酸による回転不斉誘起

図2 光学活性カルボン酸による回転不斉誘起