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研究内容

刺激に応答して瞬間的に固まる液体の潜在的応用例


流動性の瞬時制御  粘弾性の瞬時制御



光透過度の瞬時制御
(ナノレンズ、カーテン)

 

短い超音波によるエネルギー付与で、 溶液中で自由運動している洗濯ばさみ分子が集合していく開始反応と成長反応のイメージ動画。 実際の集合様態変化は鋭意研究中

 

洗濯ばさみ型機能性分子集合素子の合成:有機合成で 構築する配位子とパラジウム塩により一段階で対面構造が組み上がる自己組織化

X線結晶構造解析によって決定された分子構造

3Dビューアー

超音波照射でゲル化できる溶媒と最低ゲル化濃度。 溶媒を少量のゲル化剤でゲル化させる能力も、他のゲル化剤と比較して高い

Table.最低ゲル化濃度


このゲル化は超音波で分子が集合して 40nmの均一な繊維状構造体が生成し、これが溶媒分子の流動性を 低下させるために起こる

 

  SEM

 

ベンゼンゲルの走査型電子顕微鏡写真

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微少量の音で集まる分子anti-Pd2L2のアセトン及びシクロヘキサン溶液のゲル化。 ゲルは加熱により元の安定溶液に戻り、超音波照射で、いつでもまた瞬時ゲル化できる。 世界ではじめて、現時点でも唯一の安定溶液の瞬間ゲル化

  



音で分子が集まれば何ができるか。これまでの刺激応答性分子集合との違い

分子は自発的に集合して機能を発現する。 最近のナノサイエンスの進展により明らかになってきたこの分子集合の手法開拓と制御は、有機化学においてきわめて重要な研究分野です。 現時点で研究は、どのような構造の分子が自発的に集合するのかを探る、初期段階ですが、一部の先導的な研究グループでは、「光」という外部刺激に応答して集合する分子の開拓を行っています。 アゾベンゼン、スチルベン、スクアレン、マレイン酸などを光スイッチング部位に有する低分子の光応答性ゾル-ゲル転移法が開発されており、 多くは集合不活性なシス異性体と集合活性を有するトランス異性体間を光異性化量論反応で変換することでスイッチング作用を発現しています。

しかし、一般に光異性化では、紫外光照射でシス体ができ、可視光照射でトランス体で安定化した際集合するものですから、光照射で分子を固めるということではなく、光照射で分子集合を解くというイメージになります。 やはり、刺激応答性分子集合で、最も欲しい機能は、刺激を与えれば固まると言うことでしょうが、ゾルを基盤にしたゾル-ゲル自由制御が可能な例すら、存在しないのが実情です。

一方、分子集合の外部刺激として「音」を用いることができれば、可能性が広がります。 音は光と比べると単純な電気仕掛けで発生できるし、電子移動も伴わないのでクリーンです。 もしも極めて短い音に呼応する分子集合が可能ならば、分子集合で変化する物性としての流動性、粘弾性、光透過度などの制御が音というクリーンな刺激で可能になることになり、 日常生活におけるあらゆる分野での応用が期待され、それにより社会にもたらされる恩恵は計り知れないものがあります(図1)。


図1. 「音による分子集合」ピッと音を鳴らせばすぐ固まる
そんなできもしないことがもしも可能なら・・・

 

  



音は分子集合を壊す。音による分子集合は非常識

しかし、音響は、本質的に分子の押し引きの位置移動、併進運動そのものなので、π-スタッキングやvan der Waals相互作用、水素結合等の弱い非共有結合を開裂する働きが広く知られています。 つまり、分子集合は音で破砕されるのであって、逆に集合を誘起することは、考えられないことなのです。 実際、音響による分子集合の破砕の原理は既にペクチンゲルやゼラチンの軟化、ポリシロキサンミセルのサイズ縮小等、食品化学、写真科学を含む多くの分野で使用されており、 上記音を分子集合の外部刺激として用いる構想は正に、営々と人類社会で使用されてきた原理を無視したアイディア倒れとも呼ぶべきものであるはずでした(図2)。


図2.超音波照射は分子集合を破壊する働きしかない

  



はじめての音で集まる分子。開発のお手本は小学校の運動会。これまでにない、集合重合の原理

この課題は、本研究の結果として短い超音波照射による開始状態を形成させて分子集合を実行する、図3に示す「運動会の全員集合」モデル(queuing-up model)が解決することになりました。 π-スタッキング等の弱い非共有結合を分子内で有する洗濯バサミ様分子は、通常は分子間で相互作用を起こさず安定化し、自由運動を行う状態にあります。 まさにマスゲームにおいて子供が運動場を自分勝手に自由に駆け回る状態です(状態a)。 短い超音波の照射は一部の分子における分子内非共有結合性相互作用を開裂し、分子間相互作用への変換がなされます。 全員集合の短い笛を合図に一部の子供が整列をし始めたところとたとえることができます(状態b)。 分子間相互作用によって生成した化学種は、末端部位の高い会合性不安定構造のために、その後の超音波の連続照射なしに、自由運動状態の分子との自発的連続的会合を誘起します。 まさに出遅れた子供が、その後先生に続けて笛を吹かれることなく自発的に列へ並びに走る状況です(状態c)。


            図3. 運動会の全員集合モデル
            左から (a) 安定溶液状態、(b) 超音波照射直後の開始種発生
            (c) 照射終了後の自発的集合重合

  



音で集まる分子のデザインには、有機化学と有機金属化学の工夫がいっぱい

この洗濯バサミ型分子の設計には、折れ曲がり構造と平面構造をとりうるちょうつがい部位の導入はもとより、 その両者を適度に安定化させる方策としてのπ―スタッキング安定化要因と金属平面のd-π共役による複合安定化要因との微妙なバランスを必須とします。 我々は、遷移金属錯体の動的挙動の研究過程で、一連のメチレン鎖をスペーサーに有するtrans-ビス(サリチルアルジミン)2核金属錯体1のうち中心金属Mにパラジウム、 メチレン鎖長nが5でanti異性体が特異的に上記の動的挙動を示す条件を備えていることを見出しました。 すなわち①この錯体は、溶液中で本来有するd-π共役による金属平面の安定化を犠牲にして、金属上で折れ曲がりを形成し分子内π-スタッキングで特異的に安定化(self-lock)します。 ②さらにこのself-lock分子の安定溶液に、あらゆる外部刺激の中で超音波を照射した場合にのみ、金属本来の有するd-π安定化を回復して分子間π-スタッキングによる内部貫入し、 電車連結型の分子集合を起こす、という極めて絶妙なバランスの中で上記分子内、分子間スタッキング、換言すればself-lock interlock変換を超音波照射で制御できることを明らかにしました(図4)。


           図4. パラジウム2核有機金属分子による分子内、分子間スタッキングの
          音響による制御

  



安定溶液の瞬時ゲル化:人類初の分子集合の自由制御

ペンタメチレン鎖を有するアンチ型2核パラジウム錯体anti-1a(M = Pd, n = 5)の有機溶媒の溶液は安定で、 長時間の室温保存においても自発的なゲルや前ゲル状態の形成等いかなる分子集合による様態変化も起こしませんが、 これに3秒程度の短時間超音波を照射すると、瞬時にゲルが形成され流動性を消失します。 この際、溶媒にシクロヘキサンを用いた場合は、光透過性が保持されてゼリー様の透明ゲルが、酢酸エチルやアセトン、トルエン等では光透過性も消失し、プリン様のゲルが形成されます。 図5に示す写真は、室温で長期安定な1.20 x 10-2 M のアセトン溶液を、 水を張ったレンズクリーナー等に用いられる超音波洗浄器(単位面積あたりの超音波照射出力0.45 W/cm2, 照射周波数40kHz)に浸して3秒間の超音波照射を行なう直前および直後のものです。 室温で決してゲル化しない透明で粘度の低い希薄溶液が、超音波照射で瞬時にゲル化する状況が観測されます。 この新現象による工学的、そして理学的な波及効果は、大変大きいと考えています。


           図5. 長期に渡って安定な希薄シクロヘキサン溶液と、これに数秒の
           弱い超音波を照射して瞬間的に固めたゲル

 

本方法は、アメリカ化学会誌に速報が掲載されるや、 世界一のサイエンス2次情報誌New Scientist Magazine(米)がTop Story扱いで、 また世界一の化学2次情報誌Chemical Engineering News(米)もトップ扱いで報じています。 ほかにもScience et Vie(仏)、Scienceticker(独)、Scienzz(独)、Die Welt(独)、Wissenschaft(独)、FeeDo(独)などの欧米の一流メディアや、現代化学などによっても相次いで報道されました。 現在、基礎、応用の両面において研究が進んでいます。