• ホーム
  • 研究内容
  • 研究成果
  • 研究環境
  • メンバー
  • 研究室へのアクセス
  • ホーム
  • >
  • 研究成果 » 最近の代表的論文

研究成果について

私たちは、合成有機化学を基盤に機能ある新物質を合成し、社会に影響を与える有用な情報発信をするべく研究を行っています。 以下に研究室で選抜された代表的な研究成果を挙げ、これをわかりやすく概説します。 さらに新規性や影響力が格別に高いと考えるものには「重要論文」のクレジットを入れています。 詳細な説明は、それぞれの項目のリンクをご覧ください。
これらの論文のうちいくつかは大阪大学論文100選に選出されています。


Hysteretic Control of Near-infrared Transparency Using a Liquescent Radical Cation
Shuichi Suzuki, Daiki Yamaguchi, Yoshiaki Uchida, Takeshi Naota,
Angew. Chem. Int. Ed., 60, 8284-8288 (2021).


近赤外光吸収の履歴変換機能をもつ液状化可能なラジカルカチオン

本論文では N-ブチル-N’-メチルジヒドロフェナジンラジカルカチオンの固液相転移を利用した近赤外吸収特性と諸物性の熱履歴現象にかんして述べています。N-ブチル-N’-メチルジヒドロフェナジンラジカルカチオンのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩は約 100 度で分解せずに緑色固体から緑色液体に変化します。融解後温度を下げても比較的低温まで凝固せず、30 度でも長時間液体状態を保つことがわかりました。そこから少しだけ温度を下げた 25 度付近で元の緑色固体へと戻りました。一見すると状態以外変化がないように見えますが、固体状態と液体状態で近赤外吸収特性が大きく変化することがわかりました。これらの特性により光透過性を利用する興味深い現象が見られます。固体状態では可視光では濃い緑色のため、また 940 nm の近赤外光ではその光は透過せずに下側に置いた文字は読めません。液体状態では可視光では濃い緑色のために文字が読めませんが、940 nm の近赤外光では文字が読めるようになります。各種測定から、固体状態では多中心結合性のπダイマー (二分子間の多中心結合によりスピンを打ち消し合う状態) として存在していますが、液体状態では単量体 (モノマー) として存在していることが分かりました。本研究は、凝集状態における多中心結合の履歴状態制御という観点から極めて重要な基礎化学的知見と考えています。


Figure


Strategy for Stimuli-Induced Spin Control Using a Liquescent Radical Cation
Shuichi Suzuki, Ryochi Maya, Yoshiaki Uchida, Takeshi Naota,
ACS Omega, 4, 11031-11035 (2019).


液状化可能なラジカルカチオン種を利用した刺激によるスピン情報変換戦略

本論文では N-ペンチルフェノチアジンラジカルカチオンの固液および液固相転移の際に示す前例のない特異なスピン情報変換に関して述べたものである。N-ペンチルラジカルイオンのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩は約 100 度で分解せずに非磁性緑色固体から常磁性オレンジ色液体に変化することを見出した。さらに興味深いことに、融解後に温度を下げると、50 度付近で常磁性液体から常磁性オレンジ固体へ、さらに、30 度付近で常磁性固体から非磁性緑色固体にゆっくり変化することが分かった。常磁性オレンジ色固体状態が 50 度下では長時間変化しないが、弱いピンポイント刺激を与えることで、刺激を与えたところから非磁性緑色固体への変化が観測された。各種測定より、非磁性状態ではフェノチアジンラジカルイオンのπダイマー (二分子間の多中心結合によりスピンを打ち消し合う状態) として存在していることに対して、常磁性液体状態では単量体 (モノマー)、常磁性固体状態ではラジカルカチオンのπ電子系平面がずれて重なったダイマーとして存在していることを明らかにした。本研究は、凝集状態における多中心結合の力学刺激によるコントロールという観点から基礎科学的に極めて重要な知見である。


Figure


Heat-Resistant Properties in the Phosphorescence of trans-Bis[β-(iminomethyl)aryloxy]platinum(II) Complexes: Effect of Aromaticity on d–π Conjugation Platforms
Ryo Inoue, Masaya Naito, Masahiro Ehara, Takeshi Naota ,
Chem. Eur. J., 25, 3650-3661 (2019).


trans-ビス[β-(イミノメチル)アロイル]白金(II) 錯体のりん光における熱耐性:d-π共役プラットフォーム上の芳香族性の効果

本論文は、イミノメチルナフトラト配位子を有するtrans-ビス配位白金錯体の発光減衰に対する耐熱性とその機構的考察に関して述べたものである。1-イミノメチル-2-ナフトラト配位部位を有する錯体は、室温、溶液中で強い赤色りん光を発するが、それ以外のナフチル配位部位を有する異性体は同様条件下ほとんど発光性を示さない。77 Kの低温の溶液ではこれらの錯体はいずれも強い発光性を示すことから、1-イミノメチル-2-ナフトラト配位部位を有する錯体の強い赤色りん光性は、熱による失活の特異的耐性によることが実験により明らかになった。この錯体の特異的熱耐性は、DFT計算を用いた励起状態におけるエネルギープロファイルを精査することで、発光性錯体のMLCTとMECPのエネルギー差が他の異性体と比較して特異的に大きいことで整合的に説明された。また、上位順位にある励起状態の精査より、このMLCT-MECPのエネルギー差は主として構造歪に伴うMECPへのdσ*オービタル関与の難易度に起因することが判明し、これが配位プラットフォームの芳香族性によって説明できる(つまりは芳香族性が小さいほど発光する)ことを多方面の芳香族性議論を展開することにより明らかにした。(注:本論文後半の理論的考察の記述に関しては難易度が高く、内容の深い理解には基本的な有機無機材料化学の他、理論化学の相当程度の基礎知識を要します。)。


Figure


Helicity Control of Supramolecular Gel Fibers Consisting of an Achiral NiII Complex in a Chiral Nematic Solvent
Takatoshi Maeda, Yuuki Kuwajima, Takuya Akita, Yosuke Iwai, Naruyoshi Komiya, Yoshiaki Uchida, Takeshi Naota ,
Chem. Eur. J., 24, 12546–12554(2018).


液晶溶媒による遷移金属錯体集合体の超分子キラリティー制御

金属錯体の集合体により形成される超分子キラリティーの制御はキラリティーが主導して発現する光物性等の新機能開拓に極めて重要な課題である。一般に超分子キラリティーの制御には、集合ユニットがキラル分子である必要性があるが、微小量のキラル分子をトリガーとするキラリティー増幅や、溶液撹拌の方向による外部制御などの新手法が注目を集めてきた。 我々は、長鎖アルキル基を有する十字型のアキラルなtrans-ビス(サリチルアルジミナト)ニッケル(II)錯体が、一般的な有機溶媒中では、等方的な分子集合によって結晶を析出するのに対し、液晶中では異方的集合によって液晶のゲル化を特異的に誘起することを見出した。この際、キラルドーパントを用いたキラルネマチック液晶中での分子集合には超分子キラリティが発生し、強いCD活性と、得られるゲル繊維におけるらせん構造が顕微鏡によって明確に観測された。この際の集合体のねじれ具合は、使用するキラルドーパントのキラリティーと添加比率によって自在に右巻き、左巻きと巻の深さが制御できる。これは超分子キラリティーを溶媒で外部から自在制御した極めて珍しい例である。


液晶による超分子キラリティーの図


Single-point Remote Control of Flapping Motion in Clothespin-shaped Bimetallic Pd Complexes Based on N(sp2)―N(sp3) Interconversion on Amide Functionalities
Ryo Inoue, Soichiro Kawamorita, Takeshi Naota,
Chem. Eur. J., 22, 5712–5726(2016).


洗濯バサミ形状を有する2核パラジウム錯体におけるアミド置換基のN(sp2)-N(sp3)相互変換に基づく開閉運動の単一点遠隔制御

洗濯バサミ形状を有する金属分子は、金属と配位面のd-π共役やπ-πスタッキング相互作用、およびリンカー部位の性質に応じた運動性を有し、これによって多様な機能発現が期待される将来性に富む分子である。本論文では、リンカー部位にアミド、ウレア、ウレタンなどのペプチド結合を有する置換基を導入することで、洗濯バサミ型分子に特徴的な連続的フラッピング開閉を行う分子運動性が、アミド部位の電子的、立体的性質によって制御可能であることを、2次元NMR実験(EXSY)を駆使することにより解明した。速度論、結晶構造解析、DFT計算等を駆使した詳細な考察から、この複雑な配座変換の総合としてのフラッピング運動性の制御が、置換基の窒素上のsp2-sp3反転による単一点制御で行われていることを明らかにした。


アミド錯体の図


Control of Metal Arrays Based on Heterometallics Masquerading in Heterochiral Aggregations of Chiral Clothespin-shaped Complexes
M. Naito, R. Inoue, M. Iida, Y. Kuwajima, S. Kawamorita, N. Komiya and T. Naota,
Chem. Eur. J., 21, 12927-12939 (2015).


キラルな洗濯バサミ型錯体のヘテロキラル集合における異種金属なりすましに基づく金属配列制御

キラルな洗濯バサミ形状を有するトランスービス(サリチルアルジミナト)PdおよびPt2核錯体は、金属中心の種類によらず厳密なヘテロキラル会合による分子集合を起こす。この原理を用いるとPdとPtの交互集合 [(+)-Pd(-)-Pt(+)-Pd(-)-Pt]や様々な単一金属過剰集合、例えば [(+)-Pt(-)-Pd(+)-Pd(-)-Pd(+)-Pd(-)-Pd]や[(+)-Pd(-)-Pt(+)-Pt(-)-Pt(+)-Pt(-)-Pt]が行える。本手法の原理によって(1)金属の超音波ヒアリング能力の差を利用したゲル化における超音波感受性の制御、(2)集合によって誘起される異種金属間でのキラリティー変換、(3)集合によって誘起されるキラリティー増大など、これまでにない新しい集合体制御法が導き出された。


マスカレード



Highly Fluorescent Flavins: A Molecular Design Rationale for Quenching Protection Based on Repulsive and Attractive Control of Molecular Alignment
H. Suzuki, R. Inoue, S. Kawamorita, N. Komiya, Y. Imada and T. Naota,
Chem. Eur. J., 21, 9171-9178 (2015).


高蛍光性フラビン:分子配列の反発及び誘引制御を用いた消光阻害に基づく分子デザイン

フラビン分子は、拡張型π共役部位に基づく強い蛍光能力を有しており、バイオセンサーなどへの応用もなされる重要な発光性分子である。しかしその平面性のゆえに溶液中ではπ-スタッキングによる凝集を誘発し、エネルギー失活によってその発光量子収率は、0.2-0.3程度にとどまる。本論文では、フラビン環のN(10)位にかさ高い芳香族置換基、C(7)位にかさ高さと水素結合性を兼ね備えるアロキサン部位を有する新規フラビン化合物を合成し、これが室温で0.70というフラビン中で最高の量子発光収率で、青緑色に蛍光発光することを見出した。一連の類縁体の分子構造と発光特性の研究から、アロキサン部位の水素結合性相互作用による誘引型配列制御とかさ高い置換基による反発型制御が、高蛍光性に重要な役割を担っていることを明らかにした。


発光性フラビン



Binuclear trans-Bis(beta-iminoaryloxy)palladium(II) Complexes Doubly Linked with Pentamethylene Spacers: Structure-dependent Flapping Motion and Heterochiral Association Behavior of the Clothespin-shaped Molecules,
M. Naito, H. Souda, H. Koori, N. Komiya, T. Naota,
Chem. Eur. J., 20, 6991-7000 (2014).


ペンタメチレンスペーサー2重連結型2核トランスービス(β?イミノアリロキシ)パラジウム(II)錯体:洗濯バサミ型分子の構造依存性フラッピング運動とヘテロキラル会合挙動

この論文では、研究室で独自に開拓した配位平面2枚が柔軟なメチレンスペーサーで連結された「洗濯バサミ型分子」の溶液中での、これまでにない分子内、分子間挙動が解明された。一連の洗濯バサミ型分子は、いわゆる洗濯バサミの口をあけたり閉じたりするパタパタ運動を溶液中で高速で起こっていることが1H NMRで観測された。詳しい速度論的考察から、2枚の配位平面がまっすぐに伸びた分子anti-2では、シーソーのようなプレーンな動きをする一方で、配位面がZ型に折れ曲がっている、上からみたら卍型に見えるanti-1では、配位面を左右に連続的にねじりながら開閉運動をダイナミックに達成していることが判明した。卍型分子anti-1は右ねじれ分子と左ねじれ分子が、お互いにはまり込むきわめて珍しいヘテロキラル会合を起こすこともわかった。これにより、洗濯バサミ分子の超音波応答性会合挙動における双安定化要因への理解が深まることになった。


卍型錯体  



Solid-State Phosphorescence of trans-Bis(salicylaldiminato)platinum(II) Complexes Bearing Long Alkyl Chains: Morphology Control towards Intense Emission,
N. Komiya, N. Itami, T. Naota,
Chem. Eur. J., 19, 9497-9505 (2013).


長鎖アルキル基を有するトランス?ビス(サリチルアルジミナト)白金(II)錯体の固体燐光: 強度発光のためのモルフォロジー制御

長鎖アルキル基を有するビス(サリチルアルジミナト)白金錯体は、結晶化条件を制御することによって非発光の結晶を強発光に変換することができることを明らかにした。X線結晶構造解析により、この発光制御は、熱力学的に安定な「横積」の積層配列を熱力学的に不安定な杉綾型の「縦横積」に配列することで達成されることが分かった。これは発光しない結晶を発光させたはじめての例であり、強度固体発光のための新しい情報を提供することになった。 なお、本論文は掲載誌のカバーピクチャーに採用されている。


発光性白金錯体  



Vaulted trans-Bis(salicylaldiminato)platinum(II) Crystals: Heat-Resistant, Chromatically Sensitive Platforms for Solid-State Phosphorescence at Ambient Temperature,
N. Komiya, M. Okada, K. Fukumoto, K. Kaneta, A. Yoshida, T. Naota,
Chem. Eur. J., 19, 4798-4811 (2013).


渡環型トランス-ビス (サリチルアルジミナト)白金 (II) 結晶:室温における固体燐光のための熱耐性、色可変プラットフォーム

渡環構造を有するビス(サリチルアルジミナト)白金錯体が、低温で発揮される 高い燐光性を常温でも維持する高い熱耐性を有すること、また同一電子供与基の 置換位置を変えることによって、緑から赤までの大きな発光色変化が行えることを 明らかにした。さらに、この固体発光における熱耐性が、白金上空をアルキル鎖や PEG鎖が通過する独自の3次元渡環構造によって生起されることをX線結晶構造解析で 実証した。固体発光の熱耐性は、これまで一度も議論されたことがなく、 本論文では、発光体構築におけるその分子論的な制御の重要性を初めて明らかにした。


温度依存性   色変化



【重要論文】

Ultrasound-Induced Emission Enhancement Based on Structure-Dependent Homo- and Heterochiral Aggregations of Chiral Binuclear Platinum Complexes,
N. Komiya, T. Muraoka, M. Iida, M. Miyanaga, K. Takahashi, and T. Naota,
J. Am. Chem. Soc., 133, 16054-16061 (2011).


キラルな白金錯体の構造依存性ホモおよびヘテロキラル集合に基づく超音波誘起発光

trans-ビス(サリチルアルジミナト)白金部位2つをメチレン鎖2本でリンクしたキラルな白金錯体は溶液中でほとんど発光しないが、 これに秒単位の短く低強度の超音波を照射すると、溶液は瞬時にゲル化し強く発光する。基礎研究の結果、この発光は、 超音波照射によってホモキラルあるいはヘテロキラルキラルな分子集合が構造依存的に誘起されることで進行することが明らかになった。


超音波で光る分子


【重要論文】【大阪大学論文100選】

Highly Phosphorescent Crystals of Vaulted trans-Bis(salicylaldiminato)platinum(II) Complexes,
N. Komiya, M. Okada, K. Fukumoto, D. Jomori, and T. Naota,
J. Am. Chem. Soc., 133, 6493-6496 (2011).


渡環型 trans-ビス(サリチルアルジミナト)白金(II)錯体の強リン光性結晶

リン光材料は、薄膜や希薄溶液中で高い発光能力を有するが、結晶においては、分子間相互作用による熱的失活によって、ほとんど発光しないことが知られている。 本論文では、触媒や発光材料としてよく研究されているビス(サリチルアルジミナト)金属錯体の新しい配位形式を持つ渡環型 trans-ビス(サリチルアルジミナト)白金(II)錯体を新たに合成し、これが結晶状態において室温でこれまでになく高い効率でリン光を発することを明らかにした。 さらに、詳細な構造化学的検討から、結晶での強発光性が、結晶格子中での分子の特異な配座固定と分子配列によって発現することを明らかにした。

渡環型 trans-ビス(サリチルアルジミナト)白金(II)錯体の強リン光性結晶


Aerobic Reduction of Olefins by In Situ Generation of Diimide with Synthetic Flavin Catalysts,
Y. Imada, H. Iida, T. Kitagawa, and T. Naota, Chem. Eur. J., 17, 5908-5920 (2011).


合成フラビン触媒を用いるジイミドのその場発生によるオレフィンの空気還元

フラビン触媒の存在下、ヒドラジンを酸素酸化して強力で不安定な還元剤であるジイミド(NH=NH)をその場発生させる手法を用いることにより、 種々のオレフィンを1気圧の酸素雰囲気下で効率よく還元することができる。この手法は、1気圧の酸素を用いて、窒素と水を唯一の廃棄物として進行する環境負荷のない還元反応を提供する。 フラビン・デンドリマー会合触媒を用いた場合、芳香族、ヒドロキシオレフィンの反応が加速される一方、長鎖アルキル基を有するオレフィンは阻害されるという、基質特異性が発現する。 これは、デンドリマーの形成する空孔内部に基質がえり好みして取り込まれることで起こる、酵素類似の極めて珍しい基質特異性である。

合成フラビン触媒を用いるジイミドのその場発生によるオレフィンの空気還
元


【大阪大学論文100選】

Dynamic Vapochromic Behaviors of Organic Crystals Based on the Open Close Motions of S-Shaped Donor Acceptor Folding Units,
E. Takahashi, H. Takaya, and T. Naota, Chem. Eur. J., 16, 4793-4802 (2010).


ドナーアクセプター折りたたみ構造を有するS型分子の開閉動作に基づく有機結晶の動的ベイポクロミック挙動

電子吸引性平面部位と電子供与性平面部位を適当な炭素鎖で連結した有機分子の結晶はシックハウスガス症候群の原因物質である ホルムアルデヒドやトルエンを吸着して、その吸着分子に応じて色変化を起こす。この化合物の吸着力は大きく、また色変化は化 合物の形に特異性を有している。Spring-8放射光を用いる粉末X線回折により、この色変化が、分子内πスタッキングによってS字に 折れ曲がった結晶ユニット分子のSカーブ部分に2個の溶媒分子が取り込まれることで、S字の開閉運動が起こり、それに応じたCT相互作用によって色が変化することを実証した。

ドナーアクセプター折りたたみ構造を有するS型分子の開閉動作に基づく有機結晶の動的ベイポクロミック挙動


【大阪大学論文100選】

Switchable C- and N-Bound Isomers of Transition Metal Cyanocarbanions: Synthesis and Interconversions of Cyclopentadienyl Ruthenium Complexes of Phenylsulfonylacetonitrile Anions,,
T. Naota, A Tannna, S. Kamuro, M. Hieda, K. Ogata, S-I. Murahashi, and H. Takaya, Chem. Eur. J., 14, 2482-2498 (2008).


炭素―および窒素結合型遷移金属シアノカルバニオン:フェニルアセトニトリルアニオンのルテニウムCp錯体の合成と相互変換

一連のフェニルスルホニルアセトニトリルアニオンのルテニウム錯体を合成し、その構造と反応性を検証することで、 遷移金属シアノカルバニオンの炭素結合型および窒素結合型が相互に変換されることを明らかにした。 詳細な構造論および反応速度論により、この相互変換は、金属がNCCπ平面を滑るように移動する 一分子機構とC,N-2核錯体への自己組織化と解裂を経由する2分子機構により進行することを示した。 本論文は2000年と2002年に速報として報告した炭素結合型および窒素結合型シアノカルバニオン研究を 総括した論文である。多くの関連錯体の合成を行い、炭素結合型錯体と窒素結合型シアノカルバニオン錯体の構造、 熱的安定性、反応性に関して、計算科学による遷移状態論を含めた包括的な議論を、多くの実例を交えて行うことで、 シアノカルバニオンの静的動的挙動における基本的な知見を確立することに成功し、今後のカルバニオン化学 研究における明確な指標を提供した。

 炭素―および窒素結合型遷移金属シアノカルバニオン:フェニルアセトニトリルアニオンのルテニウムCp錯体の合成と相互変換

詳細解説はこちら


【大阪大学論文100選】

Ultrasound-Induced Gelation of Organic Fluids with Metallated Peptides,
K. Isozaki, H. Takaya, and T. Naota, Angew. Chem. Int. Ed., 46, 2855-2857 (2007).


金属化ペプチドによる有機流体の超音波応答性ゲル化

パラジウム錯体をアルキル側鎖で連結したペプチド分子の有機溶媒に短く、かつ音圧の低い超音波を照射すると、 瞬間的にゲル化する。この現象が、ペプチド鎖とパラジウム塩素との水素結合性相互作用の解裂により進行し、 その後βシート型の分子集合によって起こることを解明した。本論文は、2005年に著者らによって世界に初めて 提示された音響による小分子の集合が、水素結合性の小分子によっても起こることを世界で初めて示したもので、 化学分野で世界的に権威のある雑誌の一つであるAngew. Chem., Int. Ed.に掲載された。そのインパクトは科学界に 極めて大きく、その後欧米諸国、アジアなど多数の国の研究者によって同様しかし高度な研究群を派生する ところまで発展している。(以下は引用ではなく高度に影響を受けた類似派生研究: Bardelang, et. al, J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 3313; Badjic et al., J. Org. Chem., 2007, 72, 7270; Liu et al., Tetrahedron, 2007, 63, 7468, Bardelang et al., J. Mater. Chem., 2008, 18, 489; Ti et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2008, 47, 1063; Tang et al., J. Colloid. Interface Sci., 2008, 319, 357; Yamanaka et al., Tetrahedron Lett., 2007, 48, 8990など) また、ペプチドを用いる高い可能性から、本研究は多くの世界的な有力ブログサイト wiredに「大阪の液体は揺らすと固まる」、というインパクトある記事として掲載された(2007年5月1日)。

金属化ペプチドによる有機流体の超音波応答性ゲル化

詳細解説はこちら


Flavin-Catalyzed Generation of Diimide: An Environmentally Friendly Method for the Aerobic Hydrogenation of Olefins,
Y. Imada, H. Iida and T. Naota, J. Am. Chem. Soc., 127, 14544-14545 (2005).


フラビン触媒によるジイミド発生法:環境にやさしい、オレフィンの酸素による水素化

オレフィンの水素化は、危険な水素分子を使用する。 代替法として水素を放出しやすい金属水素化物や有機化合物を量論量用いる、多量の廃棄物を出す方法がある。 我々は、フラビン分子と酸素分子の協同効果で生まれる強い酸化力を用いて、ヒドラジンから還元力に優れたジイミドを効率よく発生できることを発見し、 これにより、1気圧の酸素と1等量のヒドラジンから、水と窒素が廃棄物として発生する究極のクリーンさで、オレフィンを効率よく還元できることを明らかにした。 ジイミドをヒドラジンの酸化で発生させてオレフィンを還元する方法はE. J. Coreyの発見以来、よく使われているが、発生するジイミドの還元力が高すぎるために、 自己還元分解を起こし、100等量程度のヒドラジンが必要な反応であった。 フラビン触媒の酸化機能はこの問題をクリアに解決し、1等量のヒドラジンで効率の良いジイミド還元を可能にした。 これにより「Aerobic Oxidation]ならぬ「Aerobic Hydrogenation」と呼ぶべき還元反応における新境地を開拓した。

 フラビン触媒によるジイミド発生法:環境にやさしい、オレフィンの酸素による水素化 図1

詳細解説はこちら


【重要論文】【大阪大学論文10選】

Molecules That Assemble by Sound: An Application to the Instant Gelation of Stable Organic Fluids,
T. Naota and H. Koori, J. Am. Chem. Soc., 127, 9324-9325 (2005).


音で集まる分子の発見:安定有機流動体の瞬時ゲル化への応用

新型2核パラジウム分子の有機溶媒の長期安定溶液に3秒程度のきわめて短く、かつ音圧の低い超音波を照射すると、またそれを外部刺激に用いた場合のみ、瞬間的にゲル化する。 音響による小分子の集合も、また流体の瞬間的固化も、さらに集合の外部精密制御も化学の200年の歴史始まって以来はじめて人類の前に提示された現象である。 化学系学術雑誌の最高峰アメリカ化学会誌に速報として掲載以来、耐震システムやタンカーのオイル漏れの緊急回避等様々な用途に応用可能な驚愕の新現象として New Scientist Magazine(米)、Chemical Engineering News(米)、Science et Vie(仏)、Scienceticker (独)、Scienzz(独)、Die Welt(独)、Wissenschaft(独)、 FeeDo(独)等の多くの海外一流メディアが大見出し扱いで取り上げている。 大阪大学論文10選。

音で集まる分子の発見:安定有機流動体の瞬時ゲル化への応用 図1

詳細解説はこちら


【大阪大学論文100選】

An Aerobic, Organocatalytic, and Chemoselective Method for Baeyer-Villiger Oxidation,
Y. Imada, H. Iida, S.-I. Murahashi, and T. Naota, Angew. Chem. Int. Ed., 44, 1704-1706 (2005).


酸素分子による、有機触媒を用いた、化学選択的なBaeyer-Villiger酸化法

ケトンをエステルに変換するBaeyer-Villiger反応は、きわめて重要な合成手法であるが、そのためには一般に危険な過酸が化学量論量必要である。 ビタミンB2由来の新規リボフラビン化合物を触媒に用いると、1気圧の酸素雰囲気下でBaeyer-Villiger反応が行えることを発見した。 この反応は一般にケトンよりも酸化され易いオレフィンやスルフィドなどの官能基の存在下においてもケトンのBaeyer-Villiger反応が優先するという、 これまでフラスコ内では実現不可能であった酵素に特徴的な官能基選択性を有する。 欧州の化学系学術雑誌の最高峰ドイツ化学会誌国際版(Impact 8.427 [JCR2003])に速報として掲載。 大阪大学論文100選。

酸素分子による、有機触媒を用いた、化学選択的なBaeyer-Villiger酸化法 図1

詳細解説はこちら


【重要論文】【大阪大学論文100選】

Flavin Catalyzed Oxidations of Sulfides and Amines with Molecular Oxygen,
Y. Imada, H. Iida, S. Ono, and S.-I. Murahashi, J. Am. Chem. Soc., 125, 2868-2869 (2003).


有機分子触媒によるアミン、スルフィドの酸素酸化反応

フラビン化合物を有機分子触媒として用いることで、酵素が行うスルフィドおよびアミンの酸素による酸化反応をフラスコ内で実現することに成功した。 従来、基質に酸素を供与する酸化反応には、重金属酸化物を用いるが、本方法はこれを1気圧の酸素雰囲気下、窒素分子と水のみを副生する極めてクリ-ンな反応で達成した。 化学系学術雑誌の最高峰アメリカ化学会誌(Impact Factor 6.079 [JCR2001])に速報として掲載。 大阪大学論文100選。

有機分子触媒によるアミン、スルフィドの酸素酸化反応 図1


【大阪大学論文100選】

Mechanism of the Interconversions between C- and N-Bound Transition Metal α-Cyanocarbanions,
T. Naota, A. Tannna, S. Kamuro, and S.-I. Murahashi, J. Am. Chem. Soc., 124, 6842-6843 (2002).


シアノカルバニオン異性化の反応機構解明

有機合成における有用な反応剤であるシアノカルバニオンは、百数十年前から有機化学に使用される汎用化学種であるが、その構造と反応性は明らかにされていない。 我々はこの窒素結合型と炭素結合型の配位異性体で反応性が異なり、相互変換可能な特異な挙動を示すことを既に明らかにしている。 この相互変換の機構を中間体のX線結晶構造解析と反応速度論的研究を行い、 π平面状を金属が滑って移動する分子内プロセスと2つの分子が集合して開裂する際に変換する分子間プロセスの2つの過去に報告例のない新形式の機構で進行することを明らかにした。 化学系学術雑誌の最高峰アメリカ化学会誌(Impact Factor 6.079 [JCR2001])に速報として掲載。 大阪大学論文100選。

シアノカルバニオン異性化の反応機構解明 図1


【大阪大学論文10選】

Enantioselective Addition of Ketene Silyl Acetals to Nitrones Catalyzed by Chiral Titanium Complexes. Synthesis of Optically Active β-Amino Acids,
S.-I. Murahashi, Y. Imada, T. Kawakami, K. Harada, Y. Yonemushi, and N. Tomita, J. Am. Chem. Soc., 124, 2888-2889 (2002).


ニトロンのアルドール型不斉炭素炭素結合形成反応

ニトロンは、アルデヒド、ケトン同様の反応性や、特異な環化反応を行う注目の合成中間体である。 本研究では、ニトロンに対するケテンシリルアセタ-ルの付加反応が、軸不斉を有するBINOLを配位子とするチタン触媒の存在下、極めて高い不斉選択性で効率良く進行することを明らかにし、 光学活性β-アミノ酸誘導体を簡便に合成する方法論を開拓した。 化学系学術雑誌の最高峰アメリカ化学会誌(Impact Factor 6.079 [JCR2001])に掲載。 大阪大学論文10選。

ニトロンのアルドール型不斉炭素炭素結合形成反応 図1


Asymmetric Baeyer-Villiger Reaction with Hydrogen Peroxide Catalyzed by a Novel Planar-Chiral Bisflavin,
S.-I. Murahashi, S. Ono and Y. Imada, Angew. Chem. Int. Ed., 41, 2366-2368 (2002).


キラル有機分子触媒による不斉Baeyer-Villiger酸化

面不斉を有する光学活性ビスフラビン化合物を合成し、これを有機分子触媒として用いることにより過酸化水素水を酸化剤とする不斉Baeyer-Villiger反応に初めて成功した。 欧州の化学系学術雑誌の最高峰ドイツ化学会誌国際版(Impact Factor 8.255 [JCR2001])に速報として掲載。

キラル有機分子触媒による不斉Baeyer-Villiger酸化 図1


【重要論文】【大阪大学論文100選】

Synthesis and Characterization of C- and N-Bound Isomers of Transition Metal α-Cyanocarbanions,
T. Naota, A. Tannna, S.-I. Murahashi, J. Am. Chem. Soc., 122, 2960-2961 (2000).


炭素および窒素結合型シアノカルバニオンの合成と動的挙動

シアノカルバニオンは有機化学における重要な反応剤であるが、その構造と反応性の相関は、 リチウム、ナトリウム塩の反応性の高さ故に、意外にも研究されず、推測と無関心のまま百数十年を経た。 我々は、対カチオンに8族遷移金属を用いることで、炭素結合型、窒素結合型の完全な異性体をはじめて単離し、カルバニオンにおける構造と反応性の一般的相関を明らかにした。 さらにこれらの異性体に外部から配位子を導入することで任意に相互変換の制御が可能であることを明らかにし、カルバニオン化学における反応性の積極制御に道を開いた。 化学系学術雑誌の最高峰アメリカ化学会誌(Impact Factor 6.025 [JCR2000])に掲載。 大阪大学論文100選。

炭素および窒素結合型シアノカルバニオンの合成と動的挙動 図1