• ホーム
  • 研究内容
  • 研究成果
  • 研究環境
  • メンバー
  • 研究室へのアクセス
  • ホーム >
  • 研究成果 » 大阪大学論文100選・10選
  • 論文100選廃止について
  • 論文100選廃止について

大阪大学では2000年から、大学の実力を世界にアピールするため全学部を対象に代表的論文100選を選出して "Annual Report of Osaka University-Academic Achievement"として国内外に公表しています。 本講座は立ち上げより12年連続(10選2回を含む)の選出を果たしています。


Volume 12 (2010-2011), 100 Papers Selections

Highly Phosphorescent Crystals of Vaulted trans-Bis(salicylaldiminato)platinum(II) Complexes,
N. Komiya, M. Okada, K. Fukumoto, D. Jomori, and T. Naota, J. Am. Chem. Soc., 133, 6493-6496 (2011).


概要:
触媒や発光材料としてよく研究されているビス(サリチルアルジミナト)金属錯体の新しい配位形式を持つ渡環型 trans-ビス(サリチルアルジミナト)白金(II)錯体を新たに合成し、 これが結晶状態において室温でこれまでになく高い効率でリン光を発することを明らかにした。 さらに、詳細な構造化学的検討から、結晶での強発光性が、結晶格子中での分子の特異な配座固定と分子配列によって発現することを明らかにした。

研究のポイント:
リン光性の有機化合物あるいは金属錯体は、低濃度薄膜や希薄溶液中で高い発光能力を有するが、結晶においては分子間相互作用による熱的失活によってほとんど発光しないことが知られている。 本論文では、平面型白金錯体に渡環構造を持たせることで、これまで困難であるとされてきた強い固体燐光発光に成功したもので、その科学的新規性、重要性は高い。 近年、ますます重要となりつつある有機EL等の発光デバイスのための燐光材料開発のための新しい考え方であり、工業的応用面からもその重要性は高い。


Volume 11 (2009-2010), 100 Papers Selections

Dynamic Vapochromic Behaviors of Organic Crystals Based on the Open–Close Motions of S-Shaped Donor–Acceptor Folding Units,
E. Takahashi, H. Takaya, and T. Naota, Chem. Eur. J., 16, 4793-4802 (2010).


概要:
電子吸引性平面部位と電子供与性平面部位を適当な炭素鎖で連結した有機分子の結晶はシックハウスガス症候群の原因物質である ホルムアルデヒドやトルエンを吸着して、その吸着分子に応じて色変化を起こす。この化合物の吸着力は大きく、また色変化は化 合物の形に特異性を有している。Spring-8放射光を用いる粉末X線回折により、この色変化が、分子内πスタッキングによってS字に 折れ曲がった結晶ユニット分子のSカーブ部分に2個の溶媒分子が取り込まれることで、S字の開閉運動が起こり、それに応じたCT相互作用によって色が変化することを実証した。

研究のポイント:
揮発性有機化合物(VOC)を吸収して色が変化するベイポクロミズムは、最近着目され始めた現象である。 本論文ではこれまで白金などの金属錯体でしか起こらなかったこの現象が安価で合成のしやすい有機化合物で起こることをはじめて明らかにし、 またその色変化と有機結晶の開閉運動の関連を分子構造で解明することで有機結晶の微小な動きの解明が放射光で行えることを提示した。 これらは工学的、科学的な観点で重要である。


Volume 10 (2008-2009), 100 Papers Selections

Ruthenium-Catalyzed Oxidative Cyanation of Tertiary Amines with Molecular Oxygen or Hydrogen Peroxide and Sodium Cyanide: sp3 C-H Bond Activation and Carbon-Carbon Bond Formation,
S-I. Murahashi, T. Nakae, H. Terai, and N. Komiya, J. Am. Chem. Soc., 130, 11005-11012 (2008).


概要:
ルテニウム触媒の存在下、分子状酸素を酸化剤に用いる3級アミンの酸化的シアノ化反応が、1気圧の温和な条件で 進行し、α-アミノニトリルが直接得られることを見出した。これらの反応に より得られるα-アミノニトリルは有用な合成中間体であり、α-アミノ酸、1,2-ジアミンや、有用な含窒素ヘテロ サイクリック化合物へと変換することができる。

研究のポイント:
医薬やマテリアルサイエンスの分野からの含窒素有機化合物の重要性は近年ますます増加しており、 含窒素有機化合物における効率的な炭素骨格構築反応の開発が早急に求められている。従来、α-アミノニトリルは、 当量以上の有機または無機酸化剤を用いる方法が知られているが、これらの反応は工業的に有利な反応とはいえない。 一方、本論文では、環境に調和したクリーンな酸化剤である分子状酸素を用いており、原理的に新しい有用な 酸化反応である。酸化条件における「sp3 C-H結合の直接活性化」と「炭素-炭素結合形成」を同時に達成した 新しい炭素骨格構築手法として、その重要性は極めて高い。


Volume 9 (2007-2008), 100 Papers Selections

Switchable C- and N-Bound Isomers of Transition Metal Cyanocarbanions: Synthesis and Interconversions of Cyclopentadienyl Ruthenium Complexes of Phenylsulfonylacetonitrile Anions,
T. Naota, A Tannna, S. Kamuro, M. Hieda, K. Ogata, S-I. Murahashi, and H. Takaya, Chem. Eur. J., 14, 2482-2498 (2008).


概要:
一連のフェニルスルホニルアセトニトリルアニオンのルテニウム錯体を合成し、その構造と反応性を検証することで、 遷移金属シアノカルバニオンの炭素結合型および窒素結合型が相互に変換されることを明らかにした。 詳細な構造論および反応速度論により、この相互変換は、金属がNCCπ平面を滑るように移動する 一分子機構とC,N-2核錯体への自己組織化と解裂を経由する2分子機構により進行することを示した。

研究のポイント:
本論文は2000年と2002年に速報として報告した炭素結合型および窒素結合型シアノカルバニオン研究を総括した本論文である。 多くの関連錯体の合成を行い、炭素結合型錯体と窒素結合型シアノカルバニオン錯体の構造、熱的安定性、 反応性に関して、計算科学による遷移状態論を含めた包括的な議論を、多くの実例を交えて行うことで、 シアノカルバニオンの静的動的挙動における基本的な知見を確立することに成功し、 今後のカルバニオン化学研究における明確な指標を提供した。

詳細解説はこちら


Volume 8 (2006-2007), 100 Papers Selections

Ultrasound-Induced Gelation of Organic Fluids with Metallated Peptides,
K. Isozaki, H. Takaya, and T. Naota, Angew. Chem. Int. Ed., 46, 2855-2857 (2007).


概要:
パラジウム錯体をアルキル側鎖で連結したペプチド分子の有機溶媒に短く、かつ音圧の低い超音波を照射すると、 瞬間的にゲル化する。この現象が、ペプチド鎖とパラジウム塩素との水素結合性相互作用の解裂により進行し、 その後βシート型の分子集合によって起こることを解明した。

研究のポイント:
本論文は、2005年に著者らによって世界に初めて提示された音響による小分子の集合が、 水素結合性の小分子によっても起こることを世界で初めて示したもので、 化学分野で世界的に権威のある雑誌の一つであるAngew. Chem., Int. Ed.に掲載された。 そのインパクトは科学界に極めて大きく、その後欧米諸国、アジアなど多数の国の研究者に よって同様しかし高度な研究群を派生するところまで発展している。 (以下は引用ではなく高度に影響を受けた類似派生研究: Bardelang, et. al, J. Am. Chem. Soc., 130, 3313 (2008); Badjic et al., J. Org. Chem., 2007, 72, 7270; Liu et al., Tetrahedron, 2007, 63, 7468, Bardelang et al., J. Mater. Chem., 2008, 18, 489; Ti et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2008, 47, 1063; Tang et al., J. Colloid. Interface Sci., 2008, 319, 357; Yamanaka et al., Tetrahedron Lett., 2007, 48, 8990など) また、ペプチドを用いる高い可能性から、本研究は多くの世界的な 有力ブログサイトwiredに「大阪の液体は揺らすと固まる」、 というインパクトある記事として掲載された(2007年5月1日)。

詳細解説はこちら


Volume 7 (2005-2006), 10 Papers Selections

Molecules That Assemble by Sound: An Application to the Instant Gelation of Stable Organic Fluids,
T. Naota and H. Koori, J. Am. Chem. Soc., 127, 9324-9325 (2005).


概要:
パラジウム分子の有機溶媒の長期安定溶液に3秒程度のきわめて短く、かつ音圧の低い超音波を照射すると、 またそれを外部刺激に用いた場合のみ、瞬間的にゲル化する。この現象はメチレン鎖5のアンチ体を、ラセミ混合物で 使用したときにだけ特異的に起こるが、多くの有機溶媒の希薄溶液で極めて高い超音波応答性を示す。種々の検討より、 この反応は洗濯ばさみ形状をした分子がヘテロキラルに連続的に会合を起こして集合体を形成することによって 進行することを明らかにした。

研究のポイント:
音響による小分子の集合も、また流体の瞬間的固化も、さらに集合の外部精密制御も化学の200年の歴史始まって 以来はじめて人類の前に提示された現象である。化学系学術雑誌の最高峰アメリカ化学会誌に速報として掲載以来、 耐震システムやタンカーのオイル漏れの緊急回避等様々な用途に応用可能な驚愕の新現象として New Scientist Magazine(米)、Chemical Engineering News(米)、Science et Vie(仏)、 Scienceticker (独)、Scienzz(独)、Die Welt(独)、Wissenschaft(独)、 FeeDo(独) 等の多くの海外一流メディアが大見出し扱いで取り上げている。

詳細解説はこちら


Volume 6 (2004-2005), 100 Papers Selections

An Aerobic, Organocatalytic, and Chemoselective Method for Baeyer-Villiger Oxidation,
Y. Imada, H. Iida, S.-I. Murahashi, and T. Naota, Angew. Chem. Int. Ed., 44, 1704-1706 (2005).


概要:
ビタミンB2由来のフラビン触媒を用いて、1気圧の分子状酸素を酸化剤とする温和な条件下でのケトンのBaeyer-Villiger酸化にはじめて成功した。 Baeyer-Villiger反応はケトンの酸化により一段階でエステルを合成する有用な分子変換反応であるが、従来法では過酸などの強力な酸化剤を用いるため、 オレフィン、アルコール、スルフィドなどの酸化され易い官能基の共存下で選択的にケトンのBaeyer-Villiger酸化を行うことはできなかった。 本反応はこれまでに例のない有機分子を触媒とする酸素酸化Baeyer-Villiger反応であり、上述した各種官能基の共存下においても選択的にBaeyer-Villiger酸化を進行させることができる。

研究のポイント:
本反応は哺乳類の肝臓でヘテロ元素化合物の酸素酸化反応を司るフラビン酵素のシミュレーションから生まれた触媒反応であるが、 Baeyer-Villiger反応として従来にない高い官能基選択性を実現しており、実用的な酸化的分子変換手法となっている。 また、本反応は分子状酸素を酸化剤とする有機分子触媒反応であることから、 酸化生成物への金属元素の混入の原因となる金属触媒を用いない点および酸化剤由来の副生成物がない点などファインケミカルス合成において極めて有用である。

詳細解説はこちら


Volume 5 (2003-2004), 100 Papers Selections

Flavin Catalyzed Oxidations of Sulfides and Amines with Molecular Oxygen,
Y. Imada, H. Iida, S. Ono, and S.-I. Murahashi, J. Am. Chem. Soc., 125, 2868-2869 (2003).


概要:
有機分子であるフラビン分子を触媒として用い、分子状酸素あるいは空気によるスルフィドおよびアミンの触媒的酸化反応に初めて成功した。 本反応は哺乳類の肝臓で酸化代謝を司っているフラビン酵素が有する酸素酸化機能を単純な有機分子を用いて実現した初めての例である。 酸素雰囲気下、基質に対して0.5等量のヒドラジンの存在下、スルフィドはスルホキシドに、第3級アミンはN-オキシドへ、 第2級アミンおよびヒドロキシルアミンは相当するニトロンへといずれも効率よく変換されることから、酸素酸化反応によるこれらの化合物の合成反応としても有用である。 触媒の活性は高く、スルフィドの酸化反応における最大触媒回転数は19000にも達する。 反応に伴う副生成物は窒素分子と水のみであり、極めてクリ-ンな酸素酸化触媒反応の構築に成功している。

研究のポイント:
酸素分子は入手が容易であると同時に水のみを副生成物とすることから理想的な酸化剤である。 従って触媒的酸素酸化反応は盛んに研究されており、遷移金属触媒を用いるいくつかの実用的な反応が開発されているが、本論文は有機分子触媒を用いる酸素酸化反応に成功した最初の例である。 申請者はフラビン酵素の活性中心のみを抽出したフラビン分子を触媒として用い、 フラビン酵素本来の酸素酸化機能を実現しており、この原理は様々な実用的酸素酸化反応の構築に応用可能である。


Volume 4 (2002-2003), 100 Papers Selections

Mechanism of the Interconversions between C- and N-Bound Transition Metal α-Cyanocarbanions,
T. Naota, A. Tannna, S. Kamuro, and S.-I. Murahashi, J. Am. Chem. Soc., 124, 6842-6843 (2002).


概要:
代表的炭素陰イオンであるシアンカルバニオンのうち対イオンが炭素上にある炭素結合型(M-C-CN)と窒素上にある窒素結合型(C-CN-M+)の相互変換は、 2000年に著者らによって初めて見いだされたが、この反応がCCNπ平面を金属が移動して起こる "metal sliding" 型分子内機構と、 自己組織化による2核錯体 (CCNM)2 の生成と開裂により進行する分子間機構の2つの経路によって進行することを、 中間体のX線結晶構造解析や詳細な反応速度論的検討により明らかにした。

研究のポイント:
本論文は、初年度の有機化学の教科書に掲載される基本的な化学種でありながら有機化学 150年の歴史上意外にも明らかにされてこなかったニトリルカルバニオンの動的挙動を解明したものであり、 その成果は有機化学、有機金属化学、無機化学等の分野の研究者に重要な情報を提供するものとなる。 また分子種の自己組織化の形成と解消が、その変換反応の鍵となることを明らかにした例としても、その重要性は極めて高い。


Volume 3 (2001-2002), 10 Papers Selections

Enantioselective Addition of Ketene Silyl Acetals to Nitrones Catalyzed by Chiral Titanium Complexes. Synthesis of Optically Active β-Amino Acids,
S.-I. Murahashi, Y. Imada, T. Kawakami, K. Harada, Y. Yonemushi, and N. Tomita, J. Am. Chem. Soc., 124, 2888-2889 (2002).


概要:
酸化触媒反応と不斉触媒反応の組み合わせにより、入手容易な第2アミンから光学活性β-アミノ酸を合成する一般的かつ高効率な手法を開発した。 第2アミンの触媒的過酸化水素酸化により合成したニトロンに対するケテンシリルアセタールの付加反応が、軸不斉を有する BINOL を配位子とするチタン触媒の存在下、 高い不斉選択性で効率良く進行することを見い出した。 さらに本不斉付加反応において、触媒となるチタン上のアキラルな配位子の配位様式および立体効果が不斉選択性の発現に大きく影響することを明らかにし、 2座配位性のカテコ-ルを配位子とした場合に、光学活性β-アミノ酸誘導体を最高 92% ee の選択性で合成することに成功した。

研究のポイント:
光学活性 α 置換アミンは生理活性アミンやアルカロイドの基本骨格であり、 その一般的で効率の良い合成法の開発は重要な課題である。 本論文では、入手容易な第2アミンを出発物質として、2つの触媒反応によりケテンシリルアセタールをアミンのα炭素上に立体選択的に導入する、 光学活性 β-アミノ酸誘導体の新規な合成手法を示した。 光学活性ルイス酸触媒により鍵中間体であるニトロンを活性化して、 求核剤の付加の立体化学を制御する本反応の原理は、他の求核剤を用いるアミンのα 位置換反応に拡張可能であると考えられ、 ニトロンを中間体とする光学活性 α 置換アミンの合成反応の新しい展開へとつながるものである。


Volume 2 (2000-2001), 100 Papers Selection

Asymmetric Synthesis of β-Amino Acids by Addition of Chiral Enolates to Nitrones via N-Acyloxyiminium Ions,
T. Kawakami, H. Ohtake, H. Arakawa, T. Okachi, Y. Imada, and S.-I. Murahashi, Bull. Chem. Soc. Jpn., 73, 2423-2444 (2000).


概要:
入手容易な第2アミンを原料とする光学活性β-アミノ酸の一般的かつ高効率合成法を開発した。 第2アミンの触媒的過酸化水素酸化によりニトロンを合成し、このニトロンと酸塩化物との反応でN-アシロキシイミニウム種を生成することにより、 エノラ-トなどのソフトな求核剤を効率良く反応させることに成功した。 キラルなホウ素あるいはチタンエノラ-トを反応用いると、金属の配位数の相違によりジアステレオ選択性が逆転することを明らかにし、 光学活性 β-アミノ酸の立体異性体を合成すると共に、各種インドリチジンアルカロイドの共通の中間体を合成した。本論文はBCSJ賞を受賞し、当該巻の表紙に掲載された。

研究のポイント:
光学活性 β-アミノ酸はペプチド中の特異構造として注目されているばかりでなく、β-ラクタムやアルカロイドの前駆体として有用な化合物であるが、その合成法は限られている。 本論文で示した手法は、入手容易な第2アミンを原料として、光学的に純粋な各種の β-アミノ酸を効率良く合成することが出来ることから、一般性の高い実用的な手法である。 また、ニトロンを酸塩化物と反応させてN-アシロキシイミニウム種を生成する手法は、ニトロンの新規な活性化法を提供するものである。


Volume 1 (1999-2000), 100 Papers Selection

Synthesis and Characterization of C- and N-Bound Isomers of Transition Metal α-Cyanocarbanions,
T. Naota, A. Tannna, S.-I. Murahashi, J. Am. Chem. Soc., 122, 2960-2961 (2000).


概要:
代表的な炭素陰イオンであるシアノカルバニオンのうち対イオンが炭素上にある炭素結合型(M-CCN)と窒素上にある窒素結合型 (M+NCC-)の異性体のつくり作りわけに初めて成功し、 これらの構造をX線結晶構造解析の手法により明らかにした。 さらにこれらの異性体が、2つの構造間で相互変換をしていることを実証し、外部から配位子を導入する化学的制御によって任意の異性体を選択的に合成する手法を開拓した。

研究のポイント:
シアノカルバニオン(シアノ炭素陰イオン)は初年度の有機化学教科書にも登場する炭素炭素結合形成に不可欠の代表的な反応性化学種であるが、 その炭素陰イオンの対イオンを含めた正確な構造と反応性との相関に関する基礎的な知見は、基本的な事項でありながら、有機化学の百数十年におよぶ歴史上 "意外にも" 明らかにされることはなかった。 これは、ひとえに上記の炭素結合型、窒素結合型錯体の完全な異性体の作りわけが極めて困難であり、これぬきには系統的な研究が不可能であったからに他ならない。 著者らの研究グル-プは、シアノカルバニオンの両異性体を安定化させるため、補助官能基に硫黄原子、対イオンにルテニウムを導入し、世界で初めてこれらの完全な異性体の合成に成功した。 さらに、これにより異性体がダイナミックに移動する動的挙動や炭素炭素結合能など、構造と反応性との相関を、初めて分子レベルで解明することに成功し、多くの関連領域を持つカルバニオン化学に基本的かつ重要な知見を与えた。