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研究内容


フラスコ PINDIの合成ルート


単結晶X線構造解析によるPINDI・2MeOHの分子構造と配列


3Dビューアー

放射光粉末X線結晶構造解析によるゲストフリーPINDIの分子構造と配列


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  • 研究のポイント


シックハウスガス ホルムアルデヒドの脅威

新築で、新建材や新しい家具が導入されると、そこに含まれるホルムアルデヒドによって、住民の健康被害が発生します。 シックハウス症候群です。ホルムアルデヒド被害は、建材や家具の生産拠点をアジア各国に移した現時点では、 なかなか押さえ込むことができず、大阪大学でも、つい最近安全保証マーク付きの家具からのホルムアルデヒドに よる健康被害が、複数部局で続発する始末です。ホルムアルデヒドの測定は、専用機器で行えますが、 測定器を持たない一般人が体調不良の原因がホルムアルデヒドによるものかどうかの特定、判断は推論以外にできず、 知らず知らずの間に健康被害が深刻化してしまうところが大きな問題です。もし、色が変わってホルムアルデヒドが 確かに発生していることを合図する簡便で安価なセンサーが供給されれば、シックハウス症候群の問題は、 解決に向けて一歩前進することでしょう。


  



シックハウスガスを検出する有機結晶PINDI

我々のグループでは、環境調和型有機化学研究の一環として、有機化合物の蒸気を効率よく吸着して色が変化する 有機結晶の開発研究に着手し、最近ピロールイミン(PI)とナフタレンジイミド(NDI)を連結した 有機化合物ピンディ(PINDI)の結晶が、種々の有機溶媒を吸着して鮮やかな色変化を起こすことを 見いだしました。構造を最適化してチューンナップした化合物を以下に示します。その際の色変化は、 有機溶媒の構造によって大きく変化します。例えば、シックハウス症候群を引き起こす代表的な 有機溶剤のトルエン、ホルムアルデヒドでは、赤紫色から、それぞれオレンジ色、黄色に変わります。


ガスセンサー結晶PINDIと有機溶剤による鮮やかな色変化

図1 ガスセンサー結晶PINDIと有機溶剤による鮮やかな色変化

 

  



なぜ色が変わる?ナノサイエンスで見る結晶のふるまい

この化合物の呈色は、化合物中に含まれるPIによる電子供給部位とNDIによる電子受容部位の相互作用が、 溶媒蒸気の吸着により変化することで起こることが、種々の構造解析によって明らかにされました。 MeOH蒸気を取り込んだPINDI結晶の、単結晶X線構造解析より、この分子は、 PI部分とNDI部分がドナーアクセプター相互作用でπスタッキングされた珍しい S字構造で分子配列して結晶化することが明らかになりました。その際MeOH2分子は S字のカーブ部分の空孔に水素結合でしっかりと包接されています。MeOHを減圧で 除去したPINDIの分子構造はSpring-8での粉末X線結晶構造解析で決定され、 MeOHの除去でS字カーブがせまくなり、PI-NDI間のドナーアクセプター効果による スタッキングが強くなることが明示されました。


PINDIおよびPINDI・2MeOHのS字構造と配列

図2 PINDIおよびPINDI・2MeOHのS字構造と配列

  



分子の微少な構造に依存して色変化が可能なS字結晶の新システム

これらの基礎研究から、(1)溶媒蒸気2分子がPINDI結晶のS字の隙間に取り込まれることで、 S字のきついカーブの曲がり具合が緩やかに変化する、(2)蒸気吸着によるこのS字の曲がり 具合緩和の程度によって色が変化するという、結晶の色変化における新機構が提示できました。 図1のトルエン、ホルムアルデヒドの色変化を結晶構造の変化として模式的にあらわすと図3の ようになります。溶媒が包接されていないPINDI結晶は、PIとNDIがしっかりと πスタッキングされていることで赤紫色を呈していますが、これに平面性が高く分子サイズが 大きくて、かつ水素結合性のないトルエン分子が吸着されると、これは芳香族部位の近くに 吸着されることで、このスタッキングがすこし阻害され、色がオレンジ色に変化します。 一方、小さな分子サイズで水素結合性の強いホルムアルデヒドはMeOHと同様に深く S字の空孔内部に入り込んで、そのスタッキングを強く阻害することで、ドナーアクセプター相互作用に よる色変化をキャンセルし、色は黄色まで変化するのです。同じ理由で、 この色変化は同じアルコール蒸気でも、1級2級3級アルコールで全く異なってきます。 今までになかった大変興味深く、また重要な現象です。


結晶内のS字分子の微少構造変化がもたらす大きな色変化

図3 結晶内のS字分子の微少構造変化がもたらす大きな色変化