• ホーム
  • 研究内容
  • 研究成果
  • 研究環境
  • メンバー
  • 研究室へのアクセス
  • ホーム
  • >
  • 研究内容 » 環状ニトロンの環拡大メタセシス反応

研究内容


合成中間体としての有用性

環状ニトロンの合成中間体としての有用性


環状ニトロンの合成法


14員環ニトロンの分子構造

14員環ニトロン

3Dビューアー


14員環ニトロンのアルドール生成物の分子構造

14員環ニトロン

3Dビューアー

環状ニトロンの環拡大メタセシス反応REMON


ニトロン:合成の難しい合成中間体 地球環境を汚してでもつくるしかなかった。

ニトロンは、極性C=N2重結合を有するイオン性の有機化合物で、その高い反応性のため、 オレフィンとの1,3-双極子付加や種々の求核剤による付加反応などで、さまざまな 含窒素化合物を合成するための潜在的に便利な中間体として、また有機反応の典型例として 合成有機化学者には比較的よく知られています。


鎖状ニトロンの一般式

 

これらの一般的な合成法は、式に示すヒドロキシルアミンとカルボニル化合物との脱水縮合です。 しかし、有機化学の専門家ならよくわかる話ですが、イミンと同じで、この方法では合成的に重要でない 鎖状化合物は容易に合成できるものの、複素環化合物のビルディングブロックとなる「環状ニトロン」は 合成できません。両末端にアルデヒドとヒドロキシルアミン部位を有する化合物の合成が ほぼ不可能だからです。環状ニトロンは、環状ヒドロキシルアミンを合成した後、 酸化水銀を量論量用いてもう一度酸化、脱水するという、とんでもなく危険で厄介な方法でのみ 合成できます。少量のニトロン分子を合成するためにでてくる廃棄物は多量の水銀です。 合成化学者はやむにやまれず、こっそりとこの環境保全に背く方法で環状ニトロンをつくって、 複雑な含窒素複素環化合物合成を達成してきました。勿論抗ガン剤の中間原料がほしければ、 地球環境が汚れるのは仕方ないという考え方です。


図1 環状ニトロンの合成はむずかしい

図1 環状ニトロンの合成はむずかしい

 
 
 

  



環状ニトロンの環境にやさしい触媒的な簡便合成法を確立

本講座では、肝臓酵素型有機触媒フラビンの項目でも述べたように、 無毒な有機触媒フラビンを用いて、環状アミンを酸素分子で直接酸化するだけで ニトロンを得る方法を開拓し、上記の手法に比べて環境負荷を極端に低減することに成功しています。 また、本講座前身の村橋俊一研究室の時代に、タングステン酸触媒の存在下で環状アミンを 過酸化水素酸化することで環状ニトロンを合成する手法も開拓し、ニトロン合成における 環境負荷の問題点を解決しました。5員環、6員環のニトロンは、複素環化合物合成に極めて重要ですので、 今では世界中の多くの有機合成化学者がこれらの方法を用いて、合成しています。


図2 環状ニトロンの触媒的合成方法

図2 環状ニトロンの触媒的合成方法

 

  



大環状ニトロンの予想外の反応性:環拡大メタセシス

ニトロン研究の老舗である我々の研究グループは、ニトロンの新しい反応性を発見しました。 例えば8員環ニトロンのような比較的大きな環サイズを持つ環状ニトロンでは、図3に示すように、 環境にやさしい有機酸触媒の存在下で、2つのニトロンが合体して16員環のジニトロンを生成し、 さらにこれを同様の条件で8員環ニトロンと反応させると24員環トリニトロン、 さらに32員環テトラニトロン、40員環ペンタニトロンと、環サイズを段階的に 増やす反応が起こります。これまで全く知られていない新規な大環状ニトロンを 続々と生み出すことができるようになりました。


図3 環サイズを段階的に増やせる革新的反応 REMON

図3 環サイズを段階的に増やせる革新的反応 REMON

 

この環拡大反応は図4に示すようにニトロンが2量化して再開裂するとき、 結合部位が相互につけ変わる「メタセシス」によって起こります。 ニトロンの環拡大メタセシスオリゴメリ化、Ring Expansion Metathesis Oligomerization of Nitrones ですので、この新反応のことを略してREMONと命名させていただいております。 果物のレモンとは綴り違いですので覚えやすいのか間違いやすいのか。


図4 くっついて離れる「メタセシス」反応

図4 くっついて離れる「メタセシス」反応

 

上述したように、ニトロンは種々の含窒素化合物に変換できる合成中間体ですので、 これらの新しい大環状ニトロン合成は、大環状アミン合成他いろいろな含窒素大環状化合物の 合成に応用可能です。有機化合物ではどのような場合でも、環状化合物は、 環化反応が起こりやすい5員環、6員環はつくりやすく、大環状化合物の合成は困難を極めます。 これほど簡便な操作で大環状化合物が合成できる本手法は、反応論的、機構的に、 また教科書的に新規で興味深いと言うだけでなく、将来の機能性物質の合成戦略にとって、 大きな意味を持つものと考えています。

図5 新物質大環状ポリニトロンの分子変換

図5 新物質大環状ポリニトロンの分子変換