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研究内容

我々は、自由かつ大胆な発想に基づき新規有機ナノ材料となりうる新しい機能性分子を設計し、確固たる有機合成化学の力に基づいて新反応や新方法論を開拓することにより目的とする分子を合成し、先端的な物理学的測定法を積極的に取り入れることにより合成した分子そのものの物性や超分子構造の形成とそのダイナミクスを検証する研究を行っています。
具体的には、光学的、電子的物性の観点から新しい機能や高い性能を有する有機化合物を創製することを目的として、パイ電子を特異なトポロジーに組み込んだ分子やナノメータ領域のサイズに拡張した新規な共役π電子系化合物の合成と新規物性の開拓、精密に設計された分子の自己組織化を利用した固体表面におけるナノ構造の作成、および外部刺激に応答して分子のもつ様々な情報を制御するナノサイズの分子機械、分子スイッチに関する研究を行っています。
詳細については、以下をご覧下さい。

新奇な共役パイ電子系化合物の合成

Figure1.jpg私たちは、ナノテクノロジーへの応用が期待され新しい光電子機能を有する物質の開拓を目的として、分子サイズがナノメータ領域に達する新奇な構造を有する共役パイ電子系化合物の合成と物性に関する研究を行っています。特に、これまで誰も作ったことのない全く新しい共役パイ電子系を創出することに強いこだわりをもち、sp混成とsp2混成炭素で構成され二次元あるいは三次元的に拡張された共役系の電子状態と分子の形に着目しています。

たとえば、三つのデヒドロベンゾ[12]アヌレン([12]DBA)から構成され、未知の二次元炭素ネットワークであるグラフィンの部分構造でもある三方形分子1を、独自の合成ルートを開拓することによって初めて合成しました。この分子は、平面に固定された構造によってパイ電子の非局在化が効率的に起こるため、炭化水素としては比較的大きな2光子吸収断面積を示すことを明らかにしました。

三つのデヒドロベンゾ[14]アヌレン([14]DBA)から構成される化合物2は、C3v対称のプロペラ形の非平面構造を持ちます。この化合物は、キラルなプロペラ構造をもち、より分極しやすい[14]DBAユニットから構成されているために、固体表面上に固定することにより、外部刺激によって一方向に回転する分子モーターの部品として機能することが期待されています。

また、デヒドロナフト[10]アヌレン3を独自の合成方法で初めて合成しました。この分子の渡環環化反応によってゼトレン4の誘導体が得られることを明らかにしました。ゼトレンは一重項ジラジカル性をもち、非線形光学特性を示すと考えられている炭化水素です。

さらに、DBA骨格に酸化還元活性金属ユニットを導入することで、DBA骨格を効率的に酸化する方法を新たに開発しました。合成された白金(II)三核錯体5は、電気化学的および化学的に容易に酸化を受け、安定なカチオンを形成することを明らかにしました。


Figure2.jpg

精密分子設計に基づいた固体表面における2次元分子配列の制御

Figure3.jpg 近年、固体表面において有機分子が自発的に集合する性質(自己集合)を利用した、ボトムアップ法による2次元的なナノ構造の構築に注目が集まっています。有機分子のサイズは約1 nmであり、分子を高精度に並べることができれば非常に微細な構造体を表面に作ることができます。これは、これまでの方法では作ることができない、10 nm以下で周期的に表面にパターンを作ることが可能となり、それらを利用した分子エレクトロニクスや極微反応場などの開発につながると期待されているためです。このようにして作られる非常に小さな構造体は走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて観察することができます。しかし、有機分子のデザインとSTM観測は別々のグループで行われることが多いため、この研究分野は有機化学が腕をふるわねばならない未開拓分野です。

私たちは、有機合成化学の知識と技術を総動員して、表面の上での分子の挙動をプログラムしたパイ共役化合物を合成し、自分たちでSTM観測を行って確かめるという方針で有機溶媒と固体基板の界面において形成される分子配列のコントロールに関する研究を行っています(右図)。

Figure4_japanese.jpgのサムネール画像例えば、デシル基により置換された三角形のデヒドロベンゾ[12]アヌレン(DBA)6aや菱形の縮環型DBA 7aが、van der Waals相互作用を駆動力としたアルキル鎖同士の組み合い(interdigitation)を分子間のつながりとして、多孔性のハニカム構造(下図a)やカゴメ構造(下図b)を形成することを明らかにしました。また、より長いアルコキシ基により置換された三角形のDBAは、その強い吸着力のため非多孔性の直線型構造を安定に形成する傾向がありますが、希薄溶液ではハニカム構造が形成されることも見出しました。この研究は、ネットワーク形成に及ぼす溶質濃度の影響を世界で初めて明らかにし、自己集合構造制御の指針を与えるものです。さらに、コロネン8とイソフタル酸9が形成する六角形の集合体が、三角形のDBA 6bが形成するハニカム構造の空孔に共吸着されて、三成分から構成されるネットワークが形成されることを報告しています。また、同様のアプローチに基づき、菱形DBA 7bが形成する六角形と三角形の空孔に、89の集合体およびトリフェニレン10が共吸着され、四成分の配列制御に成功しました(下図c)。ゲストの形と大きさが空孔と一致したことと、van der Waals相互作用と水素結合相互作用を組み合わせて利用した点が世界初の四成分ネットワーク形成の鍵となりました。


Figure5.jpg

超分子化学に基づく機能性分子の創出

分子をデザインして集合化・組織化する化学は超分子化学とよばれ、いわゆるボトムアップ型ナノサイエンス・ナノテクノロジーの基礎となります。超分子化学は分子間相互作用を利用して分子の集合をデザインし、分子集合体の機能を化学する学問です。

精密分子認識:
超分子化学を有効に利用すれば、高度な分子認識を実現できます。例えば、生体内で重要な役割を果たしているアミノ酸やアミノアルコールをターゲットにし、これらを精密に認識し選択的に錯形成することのできるホスト分子をデザインし機能化する事ができます。私たちは酵素のような生体分子の機能に見習って、多重の非共有結合的相互作用を利用した人工受容体(レセプター)を設計・合成し、その機能の評価を行っています。

Figure6.jpg当グループで合成された光学活性クラウンエーテル11は、キラルアミンに対して世界中で最も高い不斉識別能を示す人工レセプターです。その不斉識別情報は、アゾ発色団をつけた分子11とすることによりキラルゲスト(例えばエタノールアミン12)の鏡像体を吸収スペクトルや実際に目で見てもわかる鮮やかな色変化として読み出すことができます。

Figure7.jpg

さらに蛍光性ポリマーと組み合わせた分子13とすることにより不斉識別の情報を増幅させ、蛍光スペクトルの変化や目で見た明るさのちがいとしても読み出すことができます。一方、この光学活性クラウンエーテルをシリカゲルに固定して14のようなキラル固定相を作り、アミノ酸や生理活性アミン類のエナンチオマーを分離できる高性能キラルカラムを世界に先駆けて実用化することにも成功しています。

分子機械:

分子認識に基づく分子スイッチ、分子ブレーキ、分子モーターなどの機能分子開発も推し進めています。特に、輪成分とダンベルのような形をした軸成分が立体的に組み合わさって、互いに抜けないような構造をしたロタキサンとよばれる化合物の合成法の開発と、その運動性の光と熱による制御に取り組んでいます。

Figure8.jpg>>15の動画を見る

たとえば、模式的に示したロタキサン15は、大きな輪分子(青)が軸分子のステーションとよばれる2箇所のアンモニウム部位(赤)を往復するシャトリングとよばれる運動をしています。この物質に光を照射すると、輪成分(緑)の環サイズが小さくなってロタキサン16となり、シャトリング運動の速度を減速することできます。ロタキサン16の輪成分は熱によって環拡大して元の15に戻るので、この運動性制御を可逆的に行うことができます。実際のロタキサン分子は、それぞれ光・熱応答性クラウンエーテルとアンモニウム軸分子とが組み合わさった構造をした分子1718です。これらのロタキサンは、光と熱により定量的かつ可逆的に制御できるとともに、ロタキサン18のシャトリング速度は17のシャトリング速度の1%以下にまで、大きく減速できることが証明されました。

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