2002年度「夢化学」
今年の夢化学は以下のようなタイトルでフォトクロミズムの実験をしました。

「光の色と分子の色」
光をあてると色の変わる分子。

光は波長によって目に見える色が違います。長い波長ほど赤く、短いほど青くなります。光の波長は一般にナノメートル(nm)という単位で表します。波長が長過ぎて人間の目に見えない光を赤外線(800nm以上)、短すぎて見えない光を紫外線(400nm以下)、人間の目に見える中間の波長の光を可視光といいます。光のエネルギーは短波長ほど高いので、青い光の方が赤い光よりもエネルギーが高くなります。
光を物質にあてるとそのエネルギーによって化学反応が起こることがあります。光化学反応によって物質の色が変わる現象をフォトクロミズムと言います。ジアリールエテンと呼ばれる物質は紫外線をあてると図1のような構造変化を起こします。ジアリールエテンの開環体(図1左側)は無色もしくは黄色ですが、これに紫外光を照射すると閉環体(図1右側)になり、赤もしくは青色に変色します。これに可視光を照射するともとの開環体にもどすことができます(可逆性)

図1 ジアリールエテン分子の光閉環・開環反応。開環体は無色もしくは黄色だが、これに紫外光を照射すると閉環体になり、赤もしくは青色に変色する。これに可視光を照射するともとの開環体にもどり、脱色する。


ジアリールエテンのこのような性質を応用してナノスケール光メモリーを作ろうという研究が行われています。 ジアリールエテン単分子を利用できれば非常に高密度な記憶素子ができるわけで、今はやりのナノテクノロジーの研究の1つなのです。そこで今回は皆さんに ジアリールエテンを含む液体を使って字をTLC板上に書いてもらいます。無色の閉環体ならば書いた字は読めません。しかしこれに紫外光をあてると色が着いて読めるようになるはずです。残念ながら市販品の ジアリールエテン(1グラム:3万円)の閉環体は黄色をしているので完全に透明ではありません。しかし非売品の新型ジアリールエテンを使うと完全に透明なので何が書いてあるか光をあてるまではわかりません。また着色したジアリールエテンに可視光をあてると色が消えていく様子も観察してもらいます。

さて、実験結果は以下のようになりました。

 
これは市販品のジアリールエテンを使った場合ですね。紫外線をあてる前は左側のように黄色をしているのですが、紫外線をあてると右側のように赤くなります。これに可視光をあてるとまた元のように黄色くなります。

 
非売品の新型ジアリールエテンを使うとこのようになります。紫外線をあてる前は何も色がついてません。何も見えないので絵を描くのが難しいです。しかし紫外線をあてると絵が浮かび上がってきます。また可視光をあてると絵は消えてしまいます。まあ、高級なあぶり出しといったところですね。