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研究内容

 私たちは、自由かつ大胆な発想に基づいてユニークな構造や動きそして機能を有する新規物質を創り出すために、合成超分子化学を展開しています。特に、新規物質を開発するために、我々の有する高度な分子設計の技術と有機合成技術を駆使して、目的とする複数の分子を合成し、それらの分子を組み合わせて、未知の人工超分子を作成します。 その後、先端的な測定法を積極的に取り入れて、得られた物質の構造や物性、例えばそのダイナミクスを調べて、有用な物質を創り出そうとしています。

 具体的には、新しい機能や優れた性能を有する有機化合物を創製することを目下の目標として、近年、特に注目を集めている、空間的に絡まった分子集合体の合成とそれにより発現する新規物性の開拓、特に外部刺激に応答して分子のもつ様々な情報を制御するナノサイズの分子機械、分子スイッチに関する研究、また、精密に設計された分子の集合能を利用する二次元分子配列の制御特異な物性を活かして精密分子センサー等への応用を目指した機能性有機材料の開発を行っています。

構成成分分子の絡まりによる特異な構造をした超分子の合成と新規物性の開発

輪成分とダンベルのような形をした軸成分が立体的に組み合わさって、互いに抜けないような構造をした化合物はロタキサンと呼ばれ、2016年度のノーベル化学賞の受賞対象となっています。合成の困難な物質でありますが、新しく前途のある物質であります。ロタキサンの中で、下図の左に模式的に示したロタキサンは、球と立方体で構造修飾部位を示したs対称性を有する輪分子と、両端の構造が異なる軸分子を組み合わせています。ここで、中央の水色で示した鏡に映った両方のロタキサンは互いに重なり合わない構造をしています。これはロタキサン構造に特有のキラリティーを有する新しい物質であり、近年の合成技術の進展によって、ようやく研究が可能になった物質です。当グループではこの様な構造をもつ物質を有機化合物で効率よく作ることに成功し、しかも左右一方のみからなる光学活性体として単離することに成功しています。具体的な構造は下図の右に示しています。この物質は不斉認識センサーや光学分割剤等の機能性有機物質となる可能性が有り、応用面でも注目されています。

  Fig-01-3-RotWeb.gif

不斉認識センサーへの応用例として、呈色試薬の例を下に載せました。左端から不斉認識センサー、基質となるキラルアミン、そして錯形成を示す溶液色の写真です。キラルアミン(RPGO)を捕捉して目で見ても解る程度に大きな呈色能を示しています。

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外部刺激応答性の分子機械、分子スイッチの開発

分子をデザインして集合化・組織化する化学は超分子化学とよばれ、いわゆるボトムアップ型ナノサイエンス・ナノテクノロジーの基礎となります。超分子化学は分子間相互作用を利用して分子の集合をデザインし、分子集合体の機能を化学する学問です。

私たちは分子認識に基づく分子スイッチ、分子ブレーキ、分子モーターなどの機能超分子の開発に取り組んでいます。特に、ダイナミクスに大きな特徴のあるロタキサンの合成法の開発と、その運動性の光と熱による制御を目的とした研究を行っています。

たとえば、下図に模式的に示したロタキサンは、大きな輪分子が軸分子の2箇所のアンモニウム部位を往復するシャトリングとよばれる運動をしています。この物質に光を照射すると、輪成分の環サイズが小さくなって、シャトリング運動にブレーキをかける事が出来ます。ロタキサンの輪成分は熱によって環拡大して元に戻るので、ブレーキングは可逆的です。実際のロタキサンは、光と熱に応答性するクラウンエーテルとアンモニウム軸分子とが組み合わさった構造をした超分子です。実際に光と熱により定量的かつ可逆的なブレーキングが確認され、ロタキサンのシャトリング速度は1%以下にまで減速できることが証明されました。


09-ShuttlingWeb.gif>>シャトリング運動の動画を見る

下図に模式的に示したロタキサンは、振り子成分(矢印)部分のロッキング運動をブレーキングする大変珍しいロタキサンです。ブレーキングにより、ロッキング速度は0.05%まで減少出来ています。

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選択的な超分子錯体形成を利用した新しい用途の開発

分子間相互作用により選択的に分子の構造を認識して錯体を形成する現象を巧みに利用すれば、分子の絶対構造を決定することが可能になります。そのため、分子認識における基本物性である熱力学的挙動の探求を行っています。これまでに熱力学的パラメータの分子認識への寄与を詳しく調べ、温度効果をも含めた分子認識研究を展開した結果、絶対構造決定のための超分子法の開発につながる知見を得ました。すなわち、僅か2つの超分子形成人工ホスト分子溶液(Sample-1,2)を用いて、温度を変えた核磁気共鳴スペクトル測定(VTNMR)を行えば、ホストとゲストの組み合わせにより変化する化学シフト差を、個々の錯形成率に依存しない様に算出出来ることを見いだしました。これを元に当グループでは汎用的な絶対構造決定のための超分子法の開発に取り組んでいます。下図は測定操作の概略と錯形成率と化学シフトの関係を表す模式図で有り、絶対構造を決定する超分子法の基本的な関係を表す図です。

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精密分子設計に基づいた固体表面における2次元分子配列の制御

Figure3.jpg 近年、固体表面において有機分子が自発的に集合する性質(自己集合)を利用した、ボトムアップ法による2次元的なナノ構造の構築に注目が集まっています。有機分子のサイズは約1 nmであり、分子を高精度に並べることができれば非常に微細な構造体を表面に作ることができます。これは、これまでの方法では作ることができない、10 nm以下で周期的に表面にパターンを作ることが可能となり、それらを利用した分子エレクトロニクスや極微反応場などの開発につながると期待されているためです。このようにして作られる非常に小さな構造体は走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて観察することができます。しかし、有機分子のデザインとSTM観測は別々のグループで行われることが多いため、この研究分野は有機化学が腕をふるわねばならない未開拓分野です。

私たちは、有機合成化学の知識と技術を総動員して、表面の上での分子の挙動をプログラムしたパイ共役化合物を合成し、自分たちでSTM観測を行って確かめるという方針で有機溶媒と固体基板の界面において形成される分子配列のコントロールに関する研究を行っています(右図)。

Figure4-STM.jpg例えば、デシル基により置換された三角形のデヒドロベンゾ[12]アヌレンDBA-1aや菱形の縮環型DBA-2aが、van der Waals相互作用を駆動力としたアルキル鎖同士の組み合い(interdigitation)を分子間のつながりとして、多孔性のハニカム構造(下図a)やカゴメ構造(下図b)を形成することを明らかにしました。また、より長いアルコキシ基により置換された三角形のDBAは、その強い吸着力のため非多孔性の直線型構造を安定に形成する傾向がありますが、希薄溶液ではハニカム構造が形成されることも見出しました。この研究は、ネットワーク形成に及ぼす溶質濃度の影響を世界で初めて明らかにし、自己集合構造制御の指針を与えるものです。さらに、コロネンCORとイソフタル酸IPが形成する六角形の集合体が、三角形のDBA-1bが形成するハニカム構造の空孔に共吸着されて、三成分から構成されるネットワークが形成されることを報告しています。また、同様のアプローチに基づき、菱形DBA-2bが形成する六角形と三角形の空孔に、CORIPの集合体およびトリフェニレンTPが共吸着され、四成分の配列制御に成功しました(下図c)。ゲストの形と大きさが空孔と一致したことと、van der Waals相互作用と水素結合相互作用を組み合わせて利用した点が世界初の四成分ネットワーク形成の鍵となりました。


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