研究内容

糖鎖合成

核酸,ペプチドなどと比べて糖鎖研究が立ち遅れている理由の一つは,その合成法が確立していないことです.そこで,糖鎖の効率合成を目指し,新規グリコシル化法や保護基戦略を検討しています.さらに,その合成技術を,アスパラギン結合型糖鎖(N-グリカン)をはじめとするさまざまな生物活性糖鎖の精密合成に適用し,ケミカルバイオロジー研究に利用するための合成糖鎖ライブラリを構築しています.

合成糖鎖を用いたケミカルバイオロジー

 合成糖鎖を用いて,糖鎖の機能発現の分子基盤解明を進めています.糖鎖は細胞を覆うように存在し,外界とのファーストコンタクトの場を提供するため,感染症,免疫応答,細胞接着といった多くの生命現象に関与します.この細胞表層糖鎖の機能解明のために,合成した糖鎖を細胞表層に再構成(ケミカルノックイン)するという独自のアプローチを開発し,その機能解明,制御を進めています.他にも,糖鎖の生合成基質や酵素阻害剤を利用した糖鎖機能の解析・制御も検討しています.

抗体リクルート戦略

 α-galエピトープなどの糖鎖抗原は,異物の目印となる糖鎖で,この糖鎖に対する自然抗体が生体内に大量に存在し,激しい免疫反応を誘起します.これを利用したがん療法を検討しています.合成したα-gaを16量体のデンドリマーへと誘導し,がん抗体と複合化し,このα-gal-抗体複合体を用いて,がん細胞に生体内の自然抗体をリクルートし,激しい免疫応答を誘導することに成功しました.この手法を実用化するために様々な検討を進めています.また,糖鎖抗原の免疫賦活化作用に着目したワクチン開発も進めています.

ワクチン開発

糖鎖は「細胞の顔」とも呼ばれ,疾患の目印となり,ワクチン開発における有望な標的です.一方で,糖鎖は抗原性が低く,これを標的としたワクチン開発は困難を伴います.我々は,抗原とアジュバント(免疫賦活化剤)を複合化することで,抗原特異的な免疫応答を誘導できることを示してきました(セルフアジュバンティングワクチン戦略).現在は,より強力で,副作用のない手法の開発を目指し,ナノ粒子キャリアの利用などを検討しています.加えて,ペプチドワクチン,mRNAワクチンなどの検討も進めています.

損傷DNAの化学合成とDNA修復機構の解明

遺伝子の本体であるDNA,その中でも遺伝情報の本質である塩基部分は化学物質や紫外線などにより化学構造の変化(損傷)を受けます.DNAの損傷は突然変異を引き起こし細胞の死やがん化の原因となりますが,生物はDNA損傷を修復するシステム(酵素やタンパク質複合体)を有しているため,通常は正常な遺伝情報の伝播が維持されます.我々は種々のDNA損傷を有するDNA断片(オリゴヌクレオチド)を化学合成し,さまざまなDNA修復タンパク質による損傷認識・反応機構を解析し,分子から細胞までの階層を統合して理解を深めています.

タンパク質が機能する様子を捉える動的構造解析

生体分子の三次元構造を明らかにすることで,酵素の触媒機構に関する深い洞察を行うことができます.X線結晶構造解析は生体分子の化学構造を高分解能で解くことができる強力な手法である一方で,酵素が機能するまさにその瞬間の三次元構造を捉えることは,容易ではありません.しかし,一瞬だけ光るパルス光としてX線を発振できるX線自由電子レーザー(XFEL)の登場により,別光源の可視光レーザーで反応開始させた後のタンパク質三次元構造を得ることができるようになりました.我々は本測定法を用いて,光回復酵素・クリプトクロムスーパーファミリーと呼ばれる青色光受容タンパク質群の光応答反応を構造情報で得ることに成功しました.現在は,核酸合成化学と分子生物学の知見を活かし,この動的構造解析法をDNA修復酵素などのさまざまな酵素の反応機構解析に用いることを目指しています.

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