研究内容
研究目標
当研究室は、以下のようなゲノム編集技術の改良・新規開発を通じて、革新的な新ゲノム編集技術の開発や、多くの疾患患者を救える臨床応用可能な治療技術の開発を目指します。さらに既存技術の枠を越えた新しい遺伝子工学研究分野を創成していくことが目標です。
研究テーマ1: 生体内に有効な新しいゲノム編集技術『HITI』の改良
近年、ゲノムの標的遺伝子を操作する『ゲノム編集』技術が急速に進歩し、培養細胞のゲノム塩基配列を選択的に改変することが可能となった一方で、生体内で直接ゲノム配列を改変する事は非常に困難でありました。当研究室では最新の研究成果として、生きたマウスの脳・筋肉・網膜など様々な生体内組織にて標的配列を自由に改変する世界初の革新的な技術「HITI (Homology-Independent Targeted Integration)」の開発に成功しました (Suzuki et al, Nature 2016)。当該技術は、これまで困難であった生きたマウスの脳・筋肉など非分裂細胞にて標的ゲノム配列を自由に改変する世界初の技術であり、実際に遺伝性疾患である網膜色素変性症のモデルラットの視覚機能障害の治療効果が得られました (図1)。
本研究テーマでは、我々が開発したHITI技術を安全性とゲノム編集効率に特化し改良することで、将来的に医療応用可能なゲノム編集治療法の確立を目指します。本研究目標が達成されることで、筋ジストロフィーやALSなど先天的に遺伝子変異を持つ様々な遺伝性疾患患者各々に対し、病変組織内で原因変異を直接修復する『生体内ゲノム編集治療技術』の確立が期待されます。
図1 HITIによる網膜色素変性症モデルラットのゲノム編集治療
HITI治療による網膜色素変性症モデルラットのゲノム編集治療。網膜色素変性症モデルラットで見られる外顆粒層 (ONL) の減少の部分回復 (a) 及び網膜電図検査による網膜の機能回復 (b).
研究テーマ2: 新規生体内ゲノム編集治療技術の開発
原理的な観点からゲノム編集の開発を進めることで、研究テーマ1とは別の新規生体内ゲノム編集技術の開発を目指し、上記と同様に病変組織内で原因変異を直接修復する『生体内ゲノム編集治療技術』の確立を目指します。
研究テーマ3: 新規ゲノム創製技術の開発
既存のゲノム編集技術はCRISPR/Cas9などの人工DNA制限酵素によって標的ゲノムの配列を書き換える技術ですが、標的部位1〜数カ所のみを局所的 (〜5kb) に改変できる技術であり、ゲノムを大幅に改変する事は困難です。
本研究テーマでは、従来のゲノム編集技術では不可能であったゲノムの大規模改変『ゲノム創製技術』の開発を試みます。本技術が開発されれば、類縁関係にある細菌などのゲノムを大規模改変することで新規の合成生命体を創製することなどが可能になり、革新的な遺伝子操作技術の誕生が期待されます。