研究内容

草本Gの研究紹介動画(YouTube)

第二回“光”機到来!Qコロキウム (2020/06/18)で草本が講演した際の映像です。草本Gの研究の全貌が見渡せます。


分子科学研究所 市民公開講座 第127回分子科学フォーラム (2021/02/05)で草本が講演した際の映像です。草本Gの研究をより一般の方にもわかりやすいよう解説しています。

物質科学・物性科学に新概念や変革をもたらすような理をみつける

物質の機能の多様性の裏にはそれらを説明する自然科学の理(ことわり)が存在します。新しい理の発見は、学術と技術の両方に飛躍的発展や変革をもたらしてきました。私たちは、不対電子を有する分子(ラジカル)や磁性金属錯体の新物質開拓、物性創出とそのメカニズム解明を通して、物性科学に潜んでいる新しい理を明らかにすることを目指しています。物性科学に新しい研究領域や概念を創出することを夢見て研究を進めています。

研究を行う上でのアプローチはとてもシンプルです。新しい物質を合成し、その構造・物性・電子状態を明らかにする。予想に反した物性、説明できない挙動、違和感を感じるデータ・・・これらを見逃さず、なぜ?どうして?と考えることが、新しいScienceを開拓するために大切だと考えています。

光るラジカル

ラジカルは発光特性に対しネガティブに作用する物質として考えられています。発光体の発光特性を消失させてしまったり(quencher)、光により分解してしまったり。このようなことから、ラジカルの発光特性は理解が十分には進んでおらず、未開拓研究領域となっていました。私は2014年に新しいラジカルPyBTMを合成し、これが室温大気下また光照射下(励起状態)においても優れた化学安定性を有する世界初の発光ラジカルであることを報告しました。室温における蛍光量子収率(Øem)は溶液状態で1~3%である一方、マトリックス中にドープした状態ではØemは最大で89%に達します。PyBTMの高い光安定性のおかげで、二重項に基づく発光特性の基礎学理を追究できるようになりました。

光るラジカル

ラジカルの錯形成能を利用した発光機能の増強・多様化

これまで、発光ラジカルが金属イオンに配位するとその発光特性は例外なく失われてしまう、と報告されてきましたが、私たちは錯形成がラジカルの発光の特性向上・多様化・機能化のための有力な手法であることを明らかにしました。例えばPyBTMと金イオンからなる錯体は、溶液中において蛍光発光を示すのみならず、20%を超えるØemを示します。また二重項に基づく蛍光が重原子効果を受けない可能性を見出しています。錯形成という手法により、まだまだ新しい二重項発光機能を開拓できると考えています。

光るラジカル

ラジカルが示すスピンと発光の協奏物性

ラジカルのスピンと発光特性の相関に基づく物性は、開殻分子ならではの光機能として興味がもたれますが、これまで実現されてきませんでした。私たちはPyBTMをドープした分子結晶の発光スペクトルが、ドープ量に応じて多彩な発光色を示すこと、中でも10wt%ドープ試料は4.2 Kにおいて顕著な磁場依存性(magnetoluminescence)を示すことを見出しました。これはラジカルの発光特性の磁場効果の初観測であり、まさにスピンと発光が協奏した現象です。この磁場効果には、励起状態で生じるラジカルペアの磁場誘起項間交差が関わっていると予想しており、現在詳細を調べているところです。この研究成果は、閉殻発光分子では探索困難な物性を発光性ラジカルが創出できる可能性を示しています。

光るラジカル

ラジカルのフロンティア軌道制御および分子配列制御

フロンティア軌道制御:SOMOとHOMOのエネルギー準位が逆転した特異な電子状態を有するラジカルでは、酸化還元においても不対電子を失うことなく新たな不対電子を生成できる(=ジラジカルとなる)など、通常のラジカルとも閉殻分子とも異なる新奇な化学反応や電気磁気相関特性の創出が期待できますが、その化合物例は未だ限られています。私たちはtempodtラジカルが金属への配位することでSOMO-HOMO逆転の電子状態が形成されることを明らかにしました。この知見を基に、様々な手法を用いてラジカルのフロンティア軌道を制御することで、3d-spinとπ-spin共存ジラジカルの実現(Inorg. Chem. 2013)、分子内電荷移動の方向制御(Inorg. Chem. 2013)、温度制御可能なプロトン相関分子内スピン移動の創出(J. Am. Chem. Soc. 2015)など、ユニークな分子機能を開拓しています。

分子配列制御:私たちは非共有結合的な分子間相互作用であるσホール結合を利用して、固体状態におけるラジカルの新しい分子配列、新奇な電子状態の実現を目指しています。これまでに我々は、平面型ジチオレン金属錯体Ni(dmit)2のアニオンラジカルが「Bilayer Mott電子系」を形成することを見出しました。Mott電子系とは高温超伝導や量子スピン液体など特異固体物性の根源となる強電子相関系であり、Bilayer Mott電子系は、二種類の異なるMott電子系が結晶格子内に共存するという特異な電子状態です。この電子状態が、強磁性SROと反強磁性SROの共存、巨大負性磁気抵抗等、ユニークな物性を生み出すことを見出しました。

フロンティア軌道制御