DNA損傷修復に関わるタンパク質の機能解析

ヒトUV-DDBタンパクのDNA認識機構の解明

(6−4)光産物が生体内、特にヒトの細胞内でどのようなタンパク質により認識されるかを知るために、化学合成したDNAをプローブとしHeLa細胞抽出物を使ってこの損傷DNAに結合するタンパク質を探したところ、紫外線損傷DNA結合(UV-DDB)タンパクと名付けられた既知タンパク質がこの損傷 DNAを認識することがわかった。UV-DDBタンパクをコードする遺伝子の突然変異は色素性乾皮症E群と呼ばれる遺伝性疾患を引き起こすことが知られており、このタンパクはヌクレオチド除去修復にかかわることが予想されたが、その機能は解明されていなかった。
そこでこのタンパク質の機能に関する手がかりを得るためにまずDNA認識機構を解析した結果、UV-DDBタンパクは(6−4)光産物や脱塩基部位を有するDNAを認識し、タンパク質−DNA複合体中のDNAは約55°の角度で折れ曲がっていることが明らかになった(1)。タンパクが結合していない状態でのDNAの構造を蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を使って解析したところ、 (6−4)光産物の形成によりDNAには折れ曲がりといった大きな構造変化は起こらないことが明らかになった(2)。以上の結果から、(6−4)光産物の形成によりDNAは損傷部分で折れ曲がり易くなり、UV-DDBタンパクはこの性質を認識してDNAに結合すると結論した。
また、最近の共同研究において、このタンパク質と(6−4)光産物を有するDNAの複合体の構造を原子レベルで解明することに成功した(右図)(3)。

1) Fujiwara, Y., Masutani, C., Mizukoshi, T., Kondo, J., Hanaoka, F., and Iwai, S. (1999) J. Biol. Chem. 274, 20027−20033
2) Mizukoshi, T., Kodama, T. S., Fujiwara, Y., Furuno, T., Nakanishi, M., and Iwai, S. (2001) Nucleic Acids Res. 29, 4948−4954
3) Scrima, A., Konickova, R., Czyzewski, B. K., Kawasaki, Y., Jeffrey, P. D., Groisman, R., Nakatani, Y., Iwai, S., Pavletich, N. P., and Thoma, N. H. (2008) Cell 135, 1213−1223

光回復酵素の損傷認識及び修復反応機構の解明

光回復酵素は、酵素活性中心に存在するフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)からの電子移動により紫外線損傷を修復することのできるユニークな酵素であるが、その中でも(6–4)光産物を特異的に修復する(6–4)光回復酵素による修復は、損傷形成反応機構を考慮すると、単純な電子移動のみでは起こらないと考えられる。
我々はこれまでに、(6–4)光回復酵素変異体の機能解析より活性中心に存在する保存された2つのヒスチジン側鎖が修復に必要であること(1)、基質である(6–4)光産物中で修復反応に関与すると考えられている官能基同士が分子内で水素結合を形成していること(2)、および(6–4)光産物中の官能基を変換したアナログを用いた酵素反応解析から、3’側ピリミドン2位のカルボニル基と酵素間の水素結合が反応に関与していること(3)を示した。これらのことから、2つのヒスチジン側鎖による分子内酸塩基触媒反応によりオキセタン環が再形成され、その後にFADからの電子移動が起こることで修復が達成される反応機構を提唱した。
また、共同研究において、(6–4)光回復酵素の構造を原子レベルで解明することに成功した(右図)(4)。(6–4)光回復酵素の修復反応機構に関する共同研究についても報告している(5−7)。

1) Hitomi, K., Nakamura, H., Kim, S.-T., Mizukoshi, T., Ishikawa, T., Iwai, S., and Todo, T. (2001) J. Biol. Chem. 276, 10103-10109
2) Yamamoto, J., Tanaka, Y., and Iwai, S. (2009) Org. Biomol. Chem. 7, 161-166
3) Yamamoto, J., Hitomi, K., Hayashi, R., Getzoff, E. D., and Iwai, S. (2009) Biochemistry 48, 9306-9312
4) Hitomi, K., DiTacchio, L., Arvai, A. S., Yamamoto, J., Kim, S.-T., Todo, T., Tainer, J. A., Iwai, S., Panda, S., and Getzoff, E. D. (2009) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106, 6962-6967
5) Kondoh, M., Hitomi, K., Yamamoto, J., Todo, T., Iwai, S., Getzoff, E. D., and Terazima, M. (2011) J. Am. Chem. Soc. 133, 2183–2191
6) Zhang, Y., Iwata, T., Yamamoto, J., Hitomi, K., Iwai, S., Todo, T., Getzoff, E. D., and Kandori, H. (2011) Biochemistry 50, 3591–3598
7) Zhang, Y., Yamamoto, J., Yamada, D., Iwata, T., Hitomi, K., Todo, T., Getzoff, E. D., Iwai, S., and Kandori, H. (2011) J. Phys. Chem. Lett. 2, 2774–2777

図1:

図2:

図3: